本年度は研究最終年度であるが、家庭内における育児と大学内における学務の負担増加、新型コロナウイルスへの罹患などが重なり、年度内に研究成果を論文・学会発表として公表することができなかった。ただし研究自体は進展させることができた。 これまでの研究では、インターネットが普及し、送り手と受け手の関係性が崩壊する中で、媒体優位性に依拠することのない報道の自由及び報道機関の憲法上の地位の構成を検討し、報道機関は、プロフェッショナルとしてのジャーナリストにより遂行される、権力に対する監視機能と報道価値あるニュースを選別し、国民に提供する機能の二点を有した、憲法上の「知識制度体」と位置づけられ、それに相応した特権付与と責任負担が求められることを明らかにした。 本年度は特に次の2点を重点的に研究した。第一に、デジタル空間において人々に提供する「場」を形成、管理、運営する機能を有しているオンライン・プラットフォーム事業者の権力が日増しに強まり、さらに広告収入のデジタルシフトに伴い、相対的に報道機関の地位が揺らいでおり、ジャーナリズム機能を確保するために、プラットフォーム事業者と報道機関の関係性を競争政策の観点からも検討する必要がある。第二に、アテンション・エコノミーのもとで、プラットフォーム事業者もコンテンツ生成アクターも、人々の「注目」を引き付けることに主眼を置く必要に迫られ、そうした環境においてジャーナリズム機能をどのように維持すべきかを検討する必要がある。アテンション・エコノミーにおいては、収益との関連でPV、CRT、インプレッション数、閲覧時間などの指標が重要視されるため、コンテンツの内容の正確性や社会的重要性よりも、人間の反射的・非理性的部分に「刺激」を与えることが求められる。注目を稼ぎにくい「報道」を現在のメディア環境でいかにして目立たせるか。そのためにどのような制度が必要か。
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