研究課題/領域番号 |
17K13613
|
研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
上代 庸平 武蔵野大学, 法学部, 准教授 (90510793)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 地方自治 / 地方財政 / 起債制限 / 財政健全化 / 制度的保障 |
研究実績の概要 |
ドイツでは2000年代後半以降、憲法裁判所が財政問題に関する判断を積極的に行うようになってきていることは、過年度までの研究を通じて明らかにしてきたが、財政上の問題に対する法的統制の前提として、財政問題と法的問題とを架橋する方法と、財政立法者の広範な裁量の下にあるとされてきた財政問題について、いかにして統制密度の向上を図るかの点については、なお検討を要する点となっていたため、この2点を主たる問題意識として研究を進めた。 ドイツ連邦憲法裁判所及びいくつかの州憲法裁判所の判例の分析及びそれらの憲法判断を受けた財政運営の状況に対する観察から、憲法問題としての財政問題の端緒が、財政立法者に対する憲法的要請(ただし、その内実はいわゆる制度的保障又は国家目標などいくつかの形態をとる)の規範性と明確性にあることと、その問題の捉えられ方は、多分に財政状況に依存するという仮説を立て、財政状況が比較的良好な連邦・旧西側諸州と、厳しい財政状況にある旧東側諸州との比較観察を行い、その理由付けを試みている。また、財政憲法規定の規範性については、ドイツにおいては広く承認されている現況にあることから、この点についての我が国との比較を視野に入れて、新たに財政法の憲法的規定に基づく健全財政を目指すオーストリアの制度を調査対象とすることとし、その制度調査に着手した。 また、その過程で、税源の確保(「神奈川県臨時特例企業税条例事件」法学教室464号35-39頁)や財政状況が反映する周辺施策(文化財保護行政に関する「欧州における産業遺産の保護と利活用のための法制度」[共著]武蔵野法学12号251-289頁)に関する検討結果を業績として公表する作業を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、当年度には財政安定化評議会や会計検査院を含めた各機関の財政問題に対する態度の動向に関する分析を踏まえ、法的問題として財政問題を把握する方法と、統制密度の向上の手法とを明らかにすることを目指すこととしていた。ただ、この間の観察の結果、ドイツ及び各州の財政状況は比較的堅調に推移しており、ザールラントやブレーメンのような財政均衡条項の実施に対応できないであろう状況にあった州の追加的支援に関する基本法改正が実施されたほかは、議会及び会計検査院の目立った権限行使は見られず、その憲法上の問題はもっぱら憲法裁判所において扱われていた。そのため、当年度の検討対象は連邦憲法裁判所及び各州憲法裁判所における憲法の財政健全化及び起債制限条項に関する統制密度のありかたに集中することとなった。 このように、検討の範囲は狭まることとなったが、財政憲法の規範性に関する検討は深化させることができ、その法的性質論に基づくおおまかな分類に基づいて翌年度の調査研究を行う目処が立ったほか、財政憲法の規範性と財政状況の連関性に関する着想からオーストリアの財政制度の調査にも着手し、結果的には憲法規範との関連性において財政問題を捉える視座を構築できたことに加え、現実の財政状況と財政憲法の規範性の連関性についての仮説を構築することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
当初予定に基づき、今後、当年度に構築した視座と仮説に基づき、財政憲法規範の位置づけや規範性と財政健全化の関係性に関する考察を行い、その研究成果の公表を行っていく予定である。 ただ、当年度末にかけて世界の状況を大きく変えた新型コロナウイルスのパンデミックは、各国に大規模な財政出動を要求している状況にある。それに伴う財政状況の急激な変化は、当研究課題の根幹である財政健全化と財政出動の必要性の衡量に大きく影響するものであり、財政上の非常事態に直面した場合の財政憲法規範の役割に関する再検討については、避けて通ることができないと考えている。その限りにおいて、本研究の進行予定を変更する必要がある。 ドイツは、新型コロナウイルスのパンデミックに対応するための財政出動に伴い、7年ぶりとなる国債発行を行った。今後も更なる財政出動が想定される中において、この財政出動に伴う財政状況の悪化が基本法に基づく財政健全化・起債制限条項における「国の統制を免れる異常な緊急状態」として正当化されうるとしても、その構成要件や事前手続・事後的統制の方法論については冷静に観察される必要があると思われる。 従って、分析重点と調査重点は下記の通り設定することとする。 財政上の緊急状態における財政憲法の規範性(分析重点) 緊急に必要な財政出動のための財政状況の変動に関する手続的セーフガード・事後的統制の制度論(調査重点)
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額となった金額は、本来は学術データベース(Beck地方行政プラスモジュール)代金として支出を予定していたものであるが、大学図書館のBeckオンラインモジュール(LKV)での対応が可能であったことに加え、Jahresberichtの購入によっても情報のカバーが可能であったことから、執行に至らなかった。なお、当年度はオーストリアの財政制度を調査対象としたため、オーストリアにおける資料収集費や同国の制度に関する欧文資料の購入費に充当した。 また、ドイツの旧東側州における制度調査を予定していたものの、新型コロナウイルスの感染拡大により渡航を中止した。この調査については、新型コロナウイルスのパンデミックの沈静状況についての所属機関の判断に基づき、実施の是非を含めて検討する。これに関連して、新型コロナウイルスのパンデミックに伴う財政出動状況に関する資料等については、次年度において財政上の非常事態を調査重点としていることから、この積極的な収集を行う予定である。
|