研究課題/領域番号 |
17K13613
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
上代 庸平 武蔵野大学, 法学部, 教授 (90510793)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 財政健全化 / 財政憲法 / 新型コロナ対策 / 地方財政 / 地方自治 |
研究実績の概要 |
当年度は、新型コロナウイルスのパンデミック下において、日本及びドイツの国家財政及び地方財政がいかなるインパクトを被ったかの状況把握と分析を継続した。具体的な観点としては、国家財政における予備費(ドイツでは予算支出超過枠)の増大とその支出裁量の拡大に対する財政法的統制の可能性、及び、自治体財政における感染症対策等のための支出圧力の継続的な上昇の現状と、その状況に対する財政法的統制の可能性を中心とした。 ドイツにおいては、2020年に引き続き2021年にも、憲法の起債制限に対する逸脱の状況であるとの議会の議決の下、過去最高額となる起債がなされた。一方で、2022年には憲法の起債制限に適合する状況に復すべく、歳出構造の組み替えや税制改革が計画されているが、政権交代による財政運営姿勢の変化の兆しが見られるほか、年度末にはウクライナ情勢による物価高騰等の経済状況変化リスクが顕在化しており、その状況把握を継続的に行っている。 また、ドイツにおける起債制限からの逸脱の状況が継続する中で、議会や会計検査院の役割の明確化の傾向が見られることから、議会における審議の状況や会計検査院の検査報告の把握など、財政に対して統制力を有する機関の役割付けについての原理的考察のための情報収集に努めた。 上記と並行して、ドイツの財政憲法原理の日本国憲法解釈への導入可能性に関し、日本における地方財政法制の形成過程に関する考察と、現下の新型コロナウイルス・パンデミック対応による影響についての予備的観察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、当年度は前年度までの考察結果を総合するとともに、日本国憲法解釈にそれらを接続させることを試みる予定であったが、新型コロナウイルス・パンデミックは国家財政のみならず地方財政にも大きく影響するところとなり、また、年度後半には国際情勢の急激な変化に伴い、財政リスクとしての物価上昇やエネルギーコスト上昇が日独両国で見られるところとなり、引き続き現象面の観察と状況把握に努めることが必要であった。 本研究課題が検討対象としている日独両国においては、新型コロナウイルスの感染拡大状況は段階的・漸次的に落ち着きを見せているが、新型コロナウイルス・パンデミックの経済・財政に対する影響は色濃く残存しており、政治的・法的な「緊急状態」と財政上の「緊急状態」とが乖離するかのような状況も見られたことから、財政緊急状態の概念の再整理が必要になったほか、財政と経済の相関関係についても目を向ける必要に迫られた。そのような事情により、当年度に予定していた考察結果を総合する作業の着手は遅れることになったため、研究期間を延長してそれらの作業を行うことにした。 新型コロナウイルスの影響を受け、実地訪問調査は中止をやむなくされたが、オンラインによるヒアリング等の調査手法を用いて現状把握を行うことは可能になったほか、ドイツやオーストリアの自治体財政資料もデジタル化の進展の恩恵を受けて、比較的容易に入手ができるようになった。これらの手法を用いて、やや遅れた状態にある財政憲法の規範性と財政構造の連関性に関する仮説の構築を進捗させたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス・パンデミックの経済・財政に対する影響は当面は続くことが想定され、また特に欧州では国際情勢による経済リスクが顕在化している状況にあるため、本研究課題の中心的な検討対象としての国家・自治体の財政運営のその現象面及び財政憲法原理・憲法の財政条項の解釈に対する影響を含め、検討を継続する。 2021年度においては、新型コロナウイルス・パンデミックの影響は、日独両国ともに地方自治体の財政運営の変化として現れてきている。我が国でも新型コロナウイルス対策費の支出のために、財政調整基金等の基金を取り崩して財源を捻出する自治体が多く見られるが、このような地方自治体の財源確保については、財政上の緊急状態と平常状態とを切り分けた上で、一定の持続可能性を確保する必要がある。その持続可能性の財政法原則としての可能性を含めて、制度的に保障される財政自律の趣旨を踏まえつつ、考察する必要がある。 これらの財政上の緊急状態・平常状態の切り分けに関する考察を踏まえ、国と地方の財政の健全性確保に関するこれまでの考察を総合し、研究成果としてまとめる作業を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額となった金額は、ドイツの地方公共団体における制度調査並びに資料収集、及び国内の地方公共団体の財政状況に関する訪問調査に充てることを予定していたものである。当年度においては、新型コロナウイルスの感染拡大により海外渡航を中止し、また国内調査も受け入れ自治体を探すことが極めて困難であったため、また、調査方法をオンライン調査に切り替え、または電子データの送信による資料のやりとりが可能になったことによって渡航または訪問する事なく調査を実施することができたために、支出に至らなかった者である。訪問調査の実施の是非については、新型コロナウイルスのパンデミックの沈静状況に関する所属機関のガイドラインに基づき検討する。 訪問・渡航が困難であると判断した場合には、新型コロナウイルス・パンデミックの経済財政に関する日独の資料について、前年度に引き続き収集を行うこととし、その費用に充当する予定である。
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