当年度は、新型コロナウイルス禍の影響から立ち直りつつある国家財政及び地方財政の状況について、新型コロナウイルス禍の対応のために採られた臨時的ないし緊急的な財政措置の実例及びそれに対するドイツの連邦及びラントの憲法裁判所の判例に依拠しながら、「臨時的・緊急的」財政状況を「平常的・原則的」財政状況に戻していくための財政憲法及び財政法上の諸原則の具体化のあり方及びそれらに基づく財政措置についての検討を行った。 ドイツにおいては、新型コロナウイルス禍が沈静化に近づいてきたことを受けて、ラント全体としては財政赤字幅が大幅に改善している一方、ウクライナ紛争を受けた物価対策や気候変動対策、連邦軍の防衛装備強化に取り組む必要が生じたことから、連邦の財政については厳しい状況が継続しており、プライマリーバランスの赤字幅が拡大しているほか、2023年には2020年を超える過去最高の国債発行が行われる見込みになっている。 このような状況の下で、ラントにおいては新型コロナウイルス禍における財政措置に対する評価や憲法判断が現れてきているほか、気候変動対策や物価対策に対するラントごとの財政上の対策が検討されるようになったため、その傾向についての情報収集を行ったほか、状況が把握できた点について順次分析を行った。また、連邦レベルの財政問題については、特に連邦軍装備費及び気候変動対策のための特別財産による対応や物価対策のための財政規律の緩和など財政憲法の規範力の流動化の傾向が明らかに見られるようになってきており、この点を日本の国家財政における防衛費増額や物価高対策のための財政措置との比較的視点において検討するための基礎作業としての状況把握を行った。この点についても検討が可能になったところから順次成果として公表していく予定である。
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