研究課題/領域番号 |
17K13618
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
岡田 陽平 神戸大学, 国際協力研究科, 准教授 (30760532)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 平和維持活動 / 行為帰属 / ジェノサイド / 国連 / スレブレニッツァ / ルワンダ / 国際責任 |
研究実績の概要 |
2018年度は、主として、平和維持活動から生じた大規模権利侵害に対する責任を国連と部隊提供国のいずれが負うか、すなわち、行為帰属の問題について、最新の裁判例の分析を通じて取り組んだ。Stichting Mothers of Srebrenica事件オランダ・ハーグ控訴裁判所判決(2017年6月27日)は、2014年の第一審判決同様、UNPROFORオランダ部隊の行為のオランダへの帰属を肯定し、オランダの法的責任を認めたが、その理由づけにおいて第一審とは異なるアプローチを採用した。控訴審は、第一審とは異なり、平和維持活動の過程で生じた権利侵害に対する国の責任をより適切なかたちで限界づけうる論理を採用しており、その観点からきわめて重要なものである。この点を明らかにした論稿がLeiden Journal of International Lawに掲載予定である。 この論文を脱稿したのち、ルワンダでの平和維持活動に参加していたベルギー部隊がジェノサイドから住民を保護しなかった(できなかった)ことに対するベルギーの責任が追及されたMukeshimana-Ngulinzira事件について、ブリュッセル控訴裁判所が判決を下した(2018年6月8日)。本件は、Stichting Mothers of Srebrenica事件と多くの類似性をもつものであるが、裁判所はベルギーの責任を否定し、当該ベルギー部隊の行為は国連に帰属すると判示した。2018年12月、Max Planck比較公法・国際法研究所(ドイツ・ハイデルベルク)にて報告を行い、両判決を比較検討した。両裁判所が正反対の結論に至ったことは、それぞれの事例の事実を詳細にみれば整合的に説明できるものであり、両者ともに、平和維持活動に適用される行為帰属基準の具体化に寄与する先例と位置づけられるという主張を行い、おおむね肯定的な反応を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年Stichting Mothers of Srebrenicaハーグ控訴裁判所判決を分析し、国連平和維持活動に適用される行為帰属法理の構造を明らかにした論稿を完成させることができた。この論稿は、本件研究課題(2017-19年度)の中核に位置付けられる研究成果である。また、関連する重要判決が上記論稿の脱稿後に下されたが、2018年度中にこれを分析した研究報告を行うことができ、参加者から多くの有益なコメントを得た。この判決の分析結果は、本件研究課題のまとめを行う過程で、上記論稿を補足するかたちで公表する予定である。具体的には、ケース・ノートのようなかたちでの国際ジャーナルへの掲載を適宜検討する。 また平和維持活動とは概念的に区別される、いわゆる国連授権型平和活動(UN-authorized operations)に適用される行為帰属法理の研究も順調に進捗している。この問題を巡っては、コソヴォにおける多国籍軍(KFOR)の行為の国連への帰属を認めた2007年Behrami and Saramati事件欧州人権裁判所大法廷決定がリーディング・ケースといえる。この決定は、学説上痛烈に批判されてきたが、2016年Kontic事件英国高等法院女王座部判決はBehrami and Saramati事件決定のアプローチを忠実に踏襲した。Behrami and Saramati事件決定において大法廷が何をどのように判断したか、これまで十分に理解されてこなかった。そうであるがゆえに、本件決定は、法の解釈適用を大きく誤ったものではない(確かに批判の余地がないわけではない)にもかかわらず、激しい批判にさらされてきたものと報告者は考えている。この点を明らかにした論稿を、2019年度中に国際ジャーナルに掲載する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、2018年Mukeshimana-Ngulinzira事件ブリュッセル控訴裁判所判決について引き続き分析を行う。2019年6月、ドイツ・ケルン大学の国際平和・安全保障法研究所にて関連する研究報告を行う予定である。そこで得られたコメント等に基づき、ケース・ノート等のかたちで国際ジャーナルに投稿することを適宜検討する。 また国連の裁判権免除について、2018年度International Organizations Law Reviewに論文を掲載したが、これに関連して、2019年2月27日、米国連邦最高裁判所がきわめて重要な判決を下した(Jam et al. v. International Finance Corporation事件判決)。この判決は、国際金融公社という国連専門機関の一つに関するものであり、国連それ自体の裁判権免除について判断したものではないが、国連を含む国際機構の裁判権免除を巡る議論全体に影響を与えうる重要な先例として、世界中の国際法研究者の注目を集めている。確かに最高裁は、IFCが絶対的免除を享有するという控訴審判決を覆した。しかし、この判決において最高裁が解釈したのは、1945年米国国際機構免除法の規定であり、その意味でこの判決の(形式的な)射程は米国に限定される。加えて、本判決の結論は、IFC設立条約の免除関連条文の規定ぶりに依存するところが大きく、たとえ米国国内裁判所であっても、国連について同じような判断が下されるとは考えにくい。かくして、この判決の射程を精確に把握することが喫緊の課題である。この判決については、2019年5月、イタリア・ミラノ大学で開催されるセミナーにて報告を行う予定である。そこで得られたコメント等に基づき、論稿またはケース・ノート等のかたちで国際ジャーナルに投稿することを適宜検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今回生じた次年度使用額は10,000円未満であり、年度末に予定していた海外渡航の費用が想定していた額を若干下回ったことによって生じた誤差である。2019年度は、海外での研究報告の機会が多いことに加え、日本にて国際シンポジウムを開催する予定であり、それらに充てる予定である。
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