本件研究課題の最終年度にあたる2019年度は、主として、平和維持活動から生じた大規模権利侵害に対する国際法上の責任およびその追及の問題について、得られた成果を学会等で報告し、論文のかたちにまとめる作業を行った。具体的には、第一に、2019年2月のJam対国際金融公社(IFC)事件米国最高裁判所判決について、同年5月にイタリア・ミラノ大学にて研究報告を行った。この判決は、従来区別されてきた国家の主権免除と国際機構との免除とを結びつけて理解し、後者の射程は前者の場合同様(何らかのかたちで)制限的であるとしたもので、一見して画期的な先例にみえる。しかし、この判決を詳細に分析すると、その影響は限定的なものといえる。その最大の理由は、裁判所が国内法の文言解釈に終始したところにある。 第二に、2019年6月には、ドイツ・ケルン大学の国際平和・安全保障法研究所にて、国連平和維持活動が住民の保護に失敗したことに対する責任をめぐる国内裁判例について報告を行った。ルワンダでの活動をめぐるベルギー・ブリュッセル控訴審裁判所判決では、責任を負うべきは国連であると結論づけられたが、スレブレニツァに関するオランダ控訴審裁判所判決は、部隊提供国であるオランダの責任を認めた。報告では、反対の結論に至ったこれら2つの判決が、実際には整合的に理解されうる旨を説明した。 第三に、その後2019年7月、後者のオランダの裁判について、最高裁判所が判決を下し、控訴審裁判所の判断を是認したことを受け、国際法学会2019年度研究大会(9月)にて行った国際法における行為帰属に関する研究報告の中で、この最新の動向を扱った。 第二の報告の成果となる論文は現在国際ジャーナルの査読を受けており、第一および第三の報告の成果は、2020年度中に論文として公表される。
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