本研究においては,国際法上,戦争・武力紛争の条約に対する効果は,なぜ(法的根拠),どのように(法的構成),生じるのかという観点から,現代国際法における「武力紛争が条約に及ぼす効果」が法的にいかなる問題として捉えられるべきかを検討した。最終年度は,ILC条文の検討及び全体のまとめを行った。 研究期間全体を通じて得られた成果は以下の通りである。第2次大戦以前の規律枠組は,①武力行使の性質に基づき生じる権利の問題として捉える行為基底的理論,②武力紛争の「状態」としての性質に基づき,武力紛争の発生又は存在に固有の効果の問題として捉える状態基底的理論,③締約国意思の効果として捉える見解,④条約法の一般規則の適用問題として捉える見解に整理される。このうち,本主題に固有の一般国際法上の問題は,①と②の妥当性である。この点,現代の武力規制構造と整合的であるのは①の行為基底的理論であり,伝統的国際法時代の状態基底的理論の法的根拠である法秩序転換は現代では妥当とは言い難い。第2次大戦後の国際判例並びにIDI及びILCの法典化作業では,行為基底的な構成と状態基底的な構成のいずれもが提示されているが,状態基底的理論の妥当性を示す新たな理論的根拠は示されていない。2011年のILC条文の内容は曖昧さを残すが,行為基底的理論と締約国意思に基づく規律の相互関係を示したものと解釈すれば,各規定の根拠と趣旨が明確となる。 以上に基づき,本研究の結論は,現代国際法上の「武力紛争が条約に及ぼす効果」は武力紛争当事国がその武力行使の法的性質に基づき自らの条約関係に対してとれる措置の問題として捉えるべきである,というものである。その具体的意義は,「武力紛争が条約に及ぼす効果」を巡る多様な解釈論上の争点を検討する上で,当事国の武力行使の法的性質を基礎とする視座が導かれる点にある。
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