研究課題/領域番号 |
17K13627
|
研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
菅沼 真也子 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (80779695)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 故意 / 認識 / 意味の認識 / 事実の錯誤 / 詐欺 / 受け子 |
研究実績の概要 |
2019年度は育児休業から復職後、実質的に本課題の研究の初年度であったため、本課題の研究初年度に実施する計画であった「意味の認識」に関連する各論的な議論について分析、検討を加えた。 具体的には、①最判平成30年12月11日および②最判平成30年12月14日において争われた、特殊詐欺事案の受け子において必要とされる「自己の行為が詐欺に関わるものである可能性の認識」として必要な内容について検討した。①②判決では、通常の荷物のやり取りとは異なる特異な受領行為に関与する者において、「何らかの犯罪行為に関わるものかもしれない」と認識しており、かつ、「何らかの犯罪行為」から詐欺を排除していなければ、詐欺罪の故意は肯定される、と判示されているところ、このような行為者の認識の推認方法の妥当性について、1件の判例報告(2019年7月20日・中央大学刑事判例研究会)と1件の研究報告(2020年1月25日・北大刑事法研究会)を行なった。 また、主に①判決について詳細に検討を加える判例研究として、「指示を受けてマンションの空室に赴き、詐欺の被害者が送付した荷物を名宛人になりすまして受け取るなどした者に詐欺の故意および共謀があるとされた事例[最高裁平成30.12.11判決]」(法学新報第126巻第9・10号167-182頁)を執筆し、①②判決以外の判例および裁判例を含めて、裁判所の示す詐欺の故意として必要な認識の妥当性を分析する論稿として、「特殊詐欺事案における受け子の故意として必要な認識 ― 最三判平30・12・11および最二判平30・12・14を素材として ―」(商学討究第70巻第4号89-119頁)を執筆した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
意味の認識に関する判例の分析をし、それに基づいて構成要件該当事実の認識とは何かを導き出すことを、研究初年度の計画としていたところ、これについて、詐欺罪という各論に関する判例分析が主たる論稿ではあったが、このような詐欺に関する意味の認識についての検討をきっかけとして、我が国における意味の認識に関する議論状況を整理することができた。 詐欺に関する2つの最高裁判決においては、特殊詐欺における現金の受領役である受け子は、荷物の授受のみを依頼され、それが特殊詐欺行為であることや、荷物の中身が現金であることを知らされないまま受領行為に関与することがあるが、受け子たる行為者を詐欺罪で訴追するためには、荷物の受領行為の時点で、行為者が自己の行為について「詐欺に関わるものかもしれない」との認識を有していなければならない。それゆえ、行為者がいかなる認識を持っていれば「自己の関与する行為が(特殊)詐欺であること」の認識があったと認めてよいのかが問題となることについて、詐欺罪の意味の認識は、行為者が「詐欺かもしれない」と明確に想起していなくとも、関与する行為の特異性それ自体から行為者の認識を推認することができる、としており、このような見解は支持することができる。2019年度に執筆した2本の論稿では、行為者の認識の推認に関する実務の状況と、これに対する学説の反応や理論的な議論状況を整理することによって、意味の認識に関する現在の議論の理解を深め、自身の見解を構築して研究成果として発表することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究成果として得られた意味の認識に関する日本の議論状況を、比較法的観点からさらに検討することを今後の研究の推進方策とする。故意が肯定されるために必要な行為者の認識の問題は、ある事実の認識は故意にとって必要な認識か、故意の成否とは無関係の認識なのか、ということの区別の問題と密接に関連しており、特にドイツでは、故意にとって必要な認識事実とそうでない事実の区別に関する論稿が多数公刊されている。ある事実が故意の成立にとって認識すべき事実なのかそうではないのか、という問題は、故意を阻却する錯誤と故意を阻却しない錯誤の区別の問題に直結する論点であるといえるため、今後の研究として、これに関する議論が盛んなドイツの状況を分析し、妥当な区別基準を導き出したいと考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本課題は2017年度に3年間の研究として採択され、2017年度に初年度の予算が交付されましたが、2017年9月より産前産後休暇、それに引き続いて育児休業を取得し、2017年度に残額が発生しました。また、当初は2018年9月に育児休業から復職予定であったため、2018年度の予算も申請し、交付されましたが、その後2019年3月まで育児休業を延長したため、2018年度分として交付された予算は全額未使用のままでした。2019年度は2017年度の予算と2018年度の予算の2年分が交付された状態であったので、2019年度分として必要な金額を執行し、残額は2020年度に執行する予算として使用することになるため、次年度使用額が発生しています。 使用計画としては、当初の研究計画の通り、研究の2年目に使用する予算として用いる予定です。
|