研究課題/領域番号 |
17K13633
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
小浦 美保 岡山大学, 法務研究科, 准教授 (80547282)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 違法収集証拠排除法則 |
研究実績の概要 |
最高裁昭和53年9月7日判決が違法収集証拠排除法則を採用して以来、数百の事例において、その適用が主張されてきた。そして証拠排除が認められ、無罪の判断をした判断(一部無罪を含む。また、上訴審での判断は、それぞれカウントする)は、少なくとも60にのぼる。本研究は、まずはわが国においてどのような場面で証拠排除がなされてきたのかを分析することによって、その運用上・理論上の問題点を探ろうとするものである。 わが国において違法収集証拠排除の主張がなされる事例として典型的なのは、薬物事犯である。そして、薬物の使用事件や所持事件においては、被告人の尿や覚せい剤そのものが決定的な証拠となるため、これらが排除されれば、無罪判断に極めて近づく。上で挙げた無罪判断のなされた事例を見ると、8割が薬物事犯を含んでおり、排除の対象となった証拠は、覚せい剤等の薬物や被告人の尿及びそれらの鑑定書がほとんどを占める。また、これらの事例においては、任意同行や留置きの場面において、違法な身体拘束が行われたとの判断が半数以上にのぼる。そのほか、被告人等の供述調書や、他の物的証拠が違法収集証拠として排除されることもあるが、このことは、必ずしも無罪の結論には直結しない。 このように、違法収集証拠排除法則が適用される局面に制限はないと考えられるものの、実際に問題となりやすい場面には特色がみられる。 また、近年特徴的なのは、GPS事例に関する証拠排除の申立てである。GPS捜査についてこれを違法とした最高裁の判断(最高裁平成29年3月15日判決)を前提として、証拠収集過程の違法を評価し、さらにGPS捜査によって直接収集された証拠を排除する事例が散見される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、(1)わが国における証拠排除の基準を精査すること、(2)イギリスにおける判例分析を通じて証拠排除の基準を精査すること、(3)イギリス法からの示唆を得て、証拠の排除が求められる場面をより明確にしていくことを目的としている。 平成29年度は(1)を中心に検討を進める予定であったが、29年判決以降、GPS捜査によって直接収集された証拠を排除する事例が見られ、その理論的根拠についての検討が難航しているため、やや遅れが生じている。研究成果の報告についても、平成29年度中には行うことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
上記の通り、(1)わが国における証拠排除の基準をまずは精査するにあたって、下級審事例を中心とした検討を引き続き行う。とりわけ、29年判決により最高裁による違法の宣言のあったことが、証拠排除においていかなる意味を持つのか(53年判決の示した証拠排除の基準との関係)という点からの検討が未完了であるので、この点にまずは着手する。 他方で、(2)イギリスにおける判例分析を通じて証拠排除の基準を精査することについては、従来行っていた研究を継続して実施する。 特に研究計画の変更はない。
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次年度使用額が生じた理由 |
発行予定であった洋書の発行遅延により、年度内の購入ができなかったため、次年度使用額が生じた。洋書購入予定額を除けば、残金は僅少であるので、平成30年度の執行に回した方が有益だと判断した。
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