研究課題/領域番号 |
17K13634
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
松倉 治代 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 准教授 (70637529)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 黙秘権 / 自己負罪拒否特権 / 供述拒否権 / 迅速な裁判 / 被疑者取調べ / nemo tenetur |
研究実績の概要 |
本研究は、憲法38条1項及び刑事訴訟法が保障する黙秘権ないしは自己負罪拒否特権の存在根拠と理論を、憲法的意義を有するこの法原則の実質的・内在的保障の基盤を得ることを目的としている。 平成30年度の研究成果として、昨年度に著した「『迅速な裁判』の意義」に引き続き、「井戸田刑事法学における被疑者取調べの位置づけと供述拒否権」を執筆した。日本では、憲法38条1項が自己負罪拒否特権を、これを受けて刑訴法が被疑者・被告人に対して包括的黙秘権を保障しており、被疑者・被告人に対する法律上及び事実上の供述義務は否定される。法は、刑事手続の弾劾化によって、被疑者・被告人の主体性を尊重し、実体的真実発見という国家側の任務を被疑者・被告人に負わせないこととしたといえる。このような理解によれば、法は、被疑者取調べを「真実探究方法」と位置づけておらず、歴史的展開もあわせると、「被疑者取調べの目的は、証拠収集ではなく、被疑者の弁解・主張の録取の機会の付与にある」という井戸田の理解は、憲法38条1項と整合的な、供述拒否権の正しい理解を示したものであったと評価できることを示した。 また、判例評釈として、弁護人が勾留中の被告人に対し母親から預かった手紙を差し入れることを拘置所の職員が拒否したことが違法であるとして、弁護人の国家賠償請求が認められた事例(広島高平成29年11月28日判決)について、勾留中の被告人の外部とのコミュニケーションの重要性の観点から、その射程及び残された課題を検討した。また、第30回刑事司法研究会(2018年12月9日)において、DNA型鑑定の信用性に関する最高裁平成30年5月10日判決を検討した。その成果は、季刊刑事弁護に掲載予定である。 その他、研究発信として、大学院での学びの魅力を伝える学部生向け企画(2件)、高校生向け教育活動(1件)、行政との連携活動(1件)を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は、事業期間中に第2子出産後、平成30年4月1日より研究を再開した。引き続き、育児のため、従来よりも研究時間や土休日実施の研究会への参加は限られたものとなった。そこで、国内外の文献精読や執筆に注力し、論文1本、判例評釈2本(うち1本は校了済。平成31年度に発刊される季刊刑事弁護に掲載予定。)、研究会報告1本という成果を出すことができた。上記研究成果により、近年、供述獲得のための新たな捜査手法をめぐる議論が活発に行われているところ、その機能性や必要性が強調され、歴史的経緯が忘れられつつあるとともに、取調べの目的と供述拒否権の関係性を再確認する必要性が高いことが明らかになった。そこで、現在、偽計を用いて被疑者(又は被嫌疑者)から自己負罪供述を獲得する捜査手法について、供述拒否権の制約・侵害の可能性という観点から、比較法的検討に着手している。なお、その着手として、平成30年度には、同テーマに関するClaus Roxin論文を紹介・検討する報告を行った(刑法読書会第574回、2018年11月3日、立命館大学)。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、託児が難しい平日夕方以降や土休日に行われる研究会及び学会への参加、在外研究等は、限られたものとなることが予想されるが、比較法対象であるドイツの刑事訴訟法学の文献精読及びその検討に集中して取り組む時期としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
上記の事情のため、研究進捗がやや緩やかとなったため、次年度使用が生じた。上記の研究推進方策に従い、ドイツ及び日本の刑事訴訟法文献の購入に使用する予定である。
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