平成31(令和元)年度の研究成果として,昨年度に第30回刑事司法研究会において報告したDNA型鑑定の信用性に関する最高裁判決について,松倉治代「最新刑事判例を読む第8回最一判平30・5・10の検討」季刊刑事弁護98号(2019年)123~127頁を著した。本研究では,判決の分析をしたうえで,本判決の論理によれば,混合資料に関するDNA型鑑定が現代の法医学研究において今なお困難な領域と位置づけられていることを踏まえると,被告人に無罪の立証を要求するに等しいこと,最高裁が15座位のうち14座位にのみに着目して出現頻度を求めようとする姿勢ならば。被告人の犯人生を認める方向へのバイアスがかかり,鑑定の公平性を危うくすることを指摘した上で,その射程を示した。 さらに,松倉治代「身分秘匿捜査と自己負罪からの自由 欧州人権裁判所アラン事件判決の意義」大出・高田・川﨑・白取先生古稀記念論文集(2020年発行予定)を提出した(2020年4月現在校正中)。捜査機関が,被嫌疑者に対して,捜査目的や身分を秘してその不知を利用する手法,さらに積極的に偽計や欺罔を用いてその錯誤に陥った状態を利用する手法が,近年議論されている。本稿は,この身分秘匿捜査の許容性と限界について,自己負罪からの自由によるアプローチを試みるための準備として,欧州人権裁判所による2002年アラン事件判決を紹介するとともに,これがドイツの刑事司法にもたらしている影響について検討した。これは,従来より続けている,黙秘権ないしは自己負罪拒否特権の存在根拠と理論を,憲法的意義を有するこの法原則の実質的・内在的保障の基盤を得ることを目的とする研究の一部である。
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