研究課題/領域番号 |
17K13636
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
足立 友子 成城大学, 法学部, 准教授 (70452555)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 詐欺罪 / 財産犯 / 経済犯罪 |
研究実績の概要 |
研究5年目である令和3年度は、詐欺罪・組織的詐欺罪と共犯理論の関係についての分析を、特殊詐欺事案に注目しながら、引き続き行った。 本研究を開始して以降、いわゆるオレオレ詐欺や振り込め詐欺をはじめとする特殊詐欺についての判例・裁判例が蓄積され、詐欺罪の実行の着手時期や、一連の詐欺罪を分担した関与者の共犯処罰の理論構成につき論じられる機会が増えた。近時の特殊詐欺は単独犯によってではなく複数人の役割分担に基づく事実上の犯罪グループによって遂行されることがほとんどであるにも関わらず、関与者の処罰は基本的に刑法典の共犯理論を用いることで完結しており、組織的犯罪処罰法における組織的詐欺罪の成立が認められた判例・裁判例は見当たらない。他方で、組織的詐欺罪の成立が認められた事案のほとんどは、正常な企業活動・会社組織を装った、悪徳商法事案における「詐欺会社」による組織的詐欺事犯であった。この差は、組織的詐欺罪の解釈論、具体的には「組織」「団体」「団体の活動」の文言の理解が影響して生じていると考えられる。 このような棲み分けは、今後も維持されるのだろうか。組織的詐欺罪の法定刑は刑法典の詐欺罪(246条)より重く、単なる共犯の特別規定ではなくて組織によることを根拠とする加重処罰規定であることは看過できない。他方で、昨今の特殊詐欺事案においては犯罪グループの組織化が進み、リーダー格の行為者は犯行の企画と実行行為者への指示を複数件繰り返し行っているという分析もある。これは、悪徳商法事案でも問題になった、一つの犯罪集団が多数の被害者を生じさせる構図と共通する側面を有しているともいえる。そこで、犯罪グループによって実行された詐欺事犯のうち、組織的詐欺罪の成立が認められた場合と刑法典の詐欺罪と共犯規定が適用された場合とを再度分析・比較し、組織的詐欺罪の加重処罰の根拠についての再検討を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年春以降の新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、研究の遂行がやや困難となった。緊急事態宣言に伴う外出自粛で資料収集が滞った期間があり、オンラインのデータベースや文献資料を用いるなどして補おうと試みたが、通常時と全く同様に研究を進めることはできなかった。2021年度にはこの状況はやや改善したものの、本研究の最終年度に予定していた、比較法の対象とするドイツでの資料収集および専門家との意見交換が、コロナ禍による渡航制限のために渡独がかなわず実現しなかったため、研究の仕上げの支障となった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに達成しきれなかった計画の内容につき、このテーマに関する新しい判例や議論の動向も踏まえながら、今年度の研究を進めていく予定である。具体的には、当初の研究実施計画で3年目に予定していた内容のうち、日独における組織犯罪対策の現状分析と組織犯罪対策全般についての検討を引き続き進める。ドイツにおいては、組織犯罪対策について盛んに議論が行われているが、詐欺罪の類型は組織犯罪としての視点からの関心を集めていないという相違がある。また、ドイツにおいても、日本の「特殊詐欺」にあたる事案の手口はかなり多様化・巧妙化してきており、社会的関心が高まってきているが、他方でそれらは犯罪現象の問題に過ぎず解釈論上特別な問題があるわけではないとの位置づけに留まり、「特殊詐欺」のような上位概念が用いられてはいない。この点は、日本において、特殊詐欺事案自体につき成立する犯罪は古典的な刑法犯の財産犯である一方で、特殊詐欺の類型には解釈論上共通して対応すべき問題があると意識されるようになっているのとは大きく異なっている。このような対応の違いの理由を知るには、組織犯罪の概念をどのように定義づけているか、また組織犯罪対策の必要性が強調されるようになった背景について、比較検討することが必要である。また、ドイツにおいても手口が巧妙で複数人が関与する犯罪グループによって実行される詐欺行為が増加すれば、ドイツにおける詐欺罪と組織犯罪の両概念の関係性も変わってくるのではないかとも考えられる。 本年度は、以上の検討から得た示唆をもとに、日独の組織犯罪対策の概要を比較しながら、特殊詐欺についての解釈問題を整理し検討するとともに、日本の組織的詐欺罪の規定の役割・位置づけを明らかにし、研究の完成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、一昨年度に続き昨年度も海外渡航ができなかったため、予定していたドイツ出張に出かけられず、その分の旅費を使用しなかった。この出張は、比較法の対象であるドイツにおける資料収集および現地の専門家との意見交換を内容としており、本研究の仕上げのために必要である。本年度こそ、コロナ禍の状況が落ち着き次第、延期していた出張を実施して、当初の計画に沿った内容を盛り込む形で研究を完成させたい。
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