研究の最終年度となる令和4年度は、詐欺罪・組織的詐欺罪と共犯理論の関係についての分析を引き続き行った。研究を取りまとめるに当たり、この問題をめぐる状況が研究開始時とは大きく変わったことは極めて印象的である。特殊詐欺についての判例・裁判例が蓄積され、詐欺罪の実行の着手時期や、一連の詐欺罪を分担した関与者の共犯処罰の理論構成について検討する論文も数多く発表された。 近時の特殊詐欺は複数人による事実上の犯罪グループによって遂行されることがほとんどであるが、その処罰は基本的に刑法典の共犯理論を用いることで完結し、組織的犯罪処罰法における組織的詐欺罪の成立を認めた判例・裁判例は見当たらない。組織的詐欺罪の成立が認められた事案のほとんどは、正常な企業活動・会社組織を装った、悪徳商法事案における「詐欺会社」による組織的詐欺事犯であった。この現状を説明する理由としては、組織的詐欺罪の解釈論、具体的には「組織」「団体」「団体の活動」の文言の理解が影響していることが挙げられよう。 しかし、このような棲み分けが今後も維持されるかは検討の余地がある。昨今の特殊詐欺事案では、複数人が関与する事例群において一層の「組織化」がみられ、指示役と実行犯の立場や役割分担が明確に分化している傾向がうかがえる。リーダー格の行為者は犯行の企画と実行行為者への指示を複数件繰り返し行っており、その構造上、指示役と実行犯の立場がおよそ入れ替わりえない犯罪集団「組織」である。これは、前述の悪徳商法事案のように、一つの犯罪集団が多数の被害者を生じさせる構図と共通する側面を有している。組織的詐欺罪の法定刑は刑法典の詐欺罪(246条)より重く、単なる共犯の特別規定ではなくて組織によることを根拠とする加重処罰規定であることから、この「組織性」を理由とした加重処罰が認められる要件はいかなるものかを、引き続き今後も検討していきたい。
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