最終年度は,情報セキュリティ(CIA)のうちの,完全性・可用性侵害やその他のサイバー犯罪にスポットを当てて調査をし,CIA犯罪の相対化を図った。その結果,①自動運転・コネクティッドカーへのハッキングに対する現状の法的擬律が曖昧になっていること,②ドイツにおいては,我が国のSociety5.0に対応するIndustrie4.0に対応するための無権限アクセス罪の強化の議論があること,③アメリカでのネット上でのいじめ行為について,いじめ行為とハッキングとを分け,むしろサイバーいじめ罪とでもいうべき犯罪に対する立法論が問題となっていることがわかり,上記3点をいずれも論文として公表した。 まず,③については無権限アクセス罪の研究の途上で得られた副産物的な知見であり,その帰結については予測が可能なものではあったが,我が国におけるネットいじめ対策としての知見としても有用だと考えている。①については,モビリティに対する議論だけでも様々な議論があることがわかったので,より一般的な議論にする必要があると考えている。また②の議論からは,重要インフラの保護やIoTセキュリティといった政策的議論と法律論とを接合させる必要性を痛感した。 本研究では,サイバー攻撃のますますの多様化に鑑み,積極的な立法論の調査に基づいた研究を行い,それ自体はある程度成功したと考える。しかし,マルウェア投入,クラッキングといった基本的なサイバー攻撃に対する罪がよく整備されているかどうか,といった立法の点検作業は未完了である。しかも,事はサイバーの世界にとどまらない。①②で問題としたように,フィジカルに深刻な影響を及ぼし得る行為類型も観念されるようになってきている。それゆえ,その点,すなわちサイバー・フィジカル・セキュリティの保護も見据えたサイバー犯罪対策の研究を今後の進めていくべき課題として設定し,研究を進めていきたい。
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