研究課題/領域番号 |
17K13639
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
仲道 祐樹 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (80515255)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 刑事立法論 / 犯罪化論 / 処罰の早期化 / 法人処罰 / 法益論 / 危害原理 / 他害原理 / 比例原則 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、「理論的かつ実践的な刑事立法論」の構築をめざして、①大陸法圏、コモンロー圏にまたがる刑事立法論の到達点を明らかにすること、②ドイツとイギリスの刑罰制度・制裁制度を総体として分析することを通じて、刑罰が犯罪予防において果たすべき役割およびその他の制裁との本質的な差異を示すこと、③以上の調査結果を統合して、普遍的な刑事立法の基礎原理を提示することを目的として開始した。 しかし、平成29年度の研究成果により、①の作業を包括的に行うことは困難であることが明らかとなったことから、平成30年度は、日本・ドイツで用いられる犯罪化制約原理である法益論と、これと対比される危害原理との比較研究に絞って研究を行った。その結果、法益論・危害原理は、ドイツでも英米圏でも、それ単体では立法批判機能を果たすことができないと認識されていること、それに代わる枠組として憲法判断の枠組に基づいた刑事立法分析の手法が発展していることを明らかにした。ここから刑事立法の分析枠組として、1)立法者を直接拘束し、違反している場合には当該法律を無効とすることのできる憲法判断に基づく「外側の限界」と、2)合憲性は肯定した上で、その内部でより良き立法をめざしての刑法学の側からの提案・批判のフェーズである「内側の討議」からなる2段階構造を示した。その成果は、論文として掲載が決定している。 また、②の作業と関連して、ドイツにおける刑罰とその他の制裁をめぐる議論の主戦場である法人処罰に関して、イギリスとの比較と、上述の2段階構造を踏まえた分析を行った。その結果、法人処罰を認めないドイツの通説に抗して、ドイツ法においても理論上は法人処罰が可能であることを明らかにした。その成果は、ドイツ語論文として投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
法益論・危害原理に関する研究は、平成30年度中に大幅に進めることができ、論文投稿につなげることができた。そこで得られた成果は、刑事立法分析の2段階構造としてモデル化されており、刑法学・刑事立法論に新たな知見を付け加えることができたと考えている。平成29年度には作業の遅れが生じていた部分ではあるが、本年度の作業により、その遅れは取り戻せたと評価している。 本研究課題中、刑罰論とその他の制裁の関係に関する作業から派生して、イギリスとドイツにおける法人処罰の議論をフォローする作業を行った。そこから、「刑罰は最も峻厳な制裁であり、特別な要件のもとでのみ課すことができる」とするドイツの議論は、必ずしも普遍性を有しないことを認識した。 本研究課題全体との関係では、刑事立法分析の2段階構造を前提に、刑罰の固有性をどこまで取り込むかという「制裁論と原理論の統合」の作業が残っている。しかしこれは、全体の計画の中での最終段階の作業であり、平成31年度に完成させるべき課題である。 以上より、本研究課題を「(2)概ね順調に進展している。」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる平成31年度は、平成30年度に構築した「刑事立法分析の2段階構造」をもとに、「立法にあたり、罰則を用いてはならない場面とはどのようなものか」を刑罰論の知見を踏まえて明らかにする作業を行う。具体的には、日本の刑罰論を規定してきたドイツの刑罰論の理解を相対化するべく、平成29年度に収集・整理していた英米圏における刑罰論の文献を再調査し、「2段階構造」モデルとの接合を図る。具体的には、立法にあたり、憲法上罰則を用いてはならない場面というものがありうるか、を大きなリサーチ・クエスチョンとし、他の制裁と刑罰(犯罪化)とで基本権侵害の程度が異なりうるか、他の制裁にはなく刑罰であるがゆえにより強い正当化が求められるのはいかなる実質的根拠によるものかというサブ・クエスチョンに即して分析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品(書籍)購入費にあてることを予定していたが、残金が少額であり、研究遂行に必要な物品の調達に十分な金額ではなかったため、次年度繰越とした。平成31年度直接経費とあわせて、資料収集費にあてたい。
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