本研究課題は、「理論的かつ実践的な刑事立法論」の構築をめざして、1) 大陸法圏、コモンロー圏にまたがる刑事立法論の到達点を明らかにすること、2) ドイツとイギリスの刑罰制度・制裁制度を総体として分析することを通じて、刑罰が犯罪予防において果たすべき役割およびその他の制裁との本質的な差異を示すこと、3) 以上の調査結果を統合して、普遍的な刑事立法の基礎原理を提示することを目的として開始した。2018年度に研究が大幅に進展したことにより、本研究課題の中核的成果である「刑事立法分析の2段階構造」を提示することができた。 最終年度にあたる2019年度は、その精緻化に向けて、a) 日本のテロ等準備罪を素材として「刑事立法分析の2段階構造」の実践的適用可能性を提示することを前半の課題とした(上記2)および3)に対応)。その作業においては、テロ等準備罪の新設という〈犯罪化〉の手法が、他の行政的予防手段(包括的な監視など)に比して権利制約的かという観点から分析を加えた。その結果、理論的帰結としてドイツ法の知見から、刑罰は最も峻厳な制裁であるとしてその権利制約効果を他の制裁よりも高く見積もる伝統的な思考を排斥し、権利制約の程度によっては行政的予防手段の投入が可能であっても犯罪化が許容される場面があることを示し、そこからテロ等準備罪の新設は、刑事立法分析の2段階構造によっても、改善の余地はあるものの許容されることを示した。 また、イギリス法調査の過程で、イギリスの性犯罪規制をめぐって、犯罪化と非刑罰的制裁の交錯領域と呼びうる規制手法が存在することを発見した。そこで、イギリス性犯罪法および性犯罪予防に関する刑罰以外の制裁の役割に関する研究を実施した(上記2)に対応)。日本でも判例上争点となった性犯罪の様子を記録した画像等の取扱いにつき、イギリス法の関連制度を横断的に分析し、その全体像を析出した。
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