研究課題/領域番号 |
17K13640
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
笹倉 香奈 甲南大学, 法学部, 教授 (00516982)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 死刑 / 終身刑 / アメリカ / 適正手続 |
研究実績の概要 |
初年度にあたる2017年度は、文献収集と国内の実態調査研究・分析を行うほか、米国の研究を進めるという計画を立てていた。研究実績は3点にまとめられる。 第一に、日米における最近の死刑・終身刑に関する議論についての文献調査を行った。死刑についていえば、死刑事件における減軽証拠の調査のあり方、最近のアメリカにおける精神障害者の死刑執行に関する議論(判例及びABAの2016年Mental Health Standardsなど)や、21歳以下の若年者の死刑執行に関する新たな議論(ABAの2018年2月提言111号)などの調査を中心に実施した。 また、アメリカの終身刑制度の問題点についても調査した。①絶対的終身刑は死刑の代替刑として導入された側面もあるが、死刑を言い渡される者が減少した数より絶対的終身刑受刑者が増加した数の方がはるかに多いこと、②終身刑が言い渡されうる犯罪が絞り切れていないこと、③死刑事件にくらべて絶対的終身刑の事件については手続的保障が非常に薄いこと、④犯情に注目した刑の言渡しがなわれており、将来の危険予測が困難であること、⑤処遇プログラムが未開発であることなど、多数の問題があることが浮かび上がった。総じて、アメリカの終身刑制度は「適正手続なき隔離政策」となってしまっていることがわかった。 第二に、以上を踏まえ、またこの分野について詳しい専門家を交えて日本犯罪社会学会大会(2017年9月)において終身刑に関するラウンドテーブル「死刑と無期の間:終身刑問題をどう考えるか」を主催し、報告を行った。終身刑事件の手続的適正をどのように構成するか、様々な国でどのように終身刑受刑者の「特別なニーズ」を把握しているのかを検討する必要性が明らかになった。 第三に、上記のほか、一般的な誤判・冤罪や冤罪原因に関する研究を進めることによって、適正な刑事手続のあり方についての検討を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、2017年度は、以下について研究を進める計画を立てていた。 第一に文献の収集、第二に国内の実態調査研究・分析、第三に米国の死刑・終身刑の手続についての研究をすすめるというものであった。 以上のうち、前項のとおり、①③についてはおおむね順調に研究を進めており、学会での研究発表をも行うことができた。また2018年度(2年目)以降により深めなければならない課題、日本・アメリカ以外の国の研究を行う際に着目しなければならない問題点についても明らかになった。 ただし、国内の実態調査については、いくつかの死刑弁護団や死刑事件を担当する弁護士等と接する機会があったものの、量的・質的な調査を行うことは時間の問題もあり、かなわなかった。この点については2018年度以降の課題としたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は当初の計画どおり、前年度の研究を継続してアメリカにおける議論を参照しつつ、死刑手続が適正であるかを判断するための客観的な基準を策定していきたい。英国の終身刑制度についての研究も行う。以下の内容を予定している。 第一に、死刑制度が適正であるといえるための客観的な基準の提案を行いたい。2018年度は上半期にアメリカから死刑制度に詳しい専門家が複数人来日することが決定しており、意見交換などを通じて研究を深めたいと考えている。 基準の提案を行う際には、アメリカ法律家協会(ABA)が2002年に立ち上げた「死刑の適正化検証プロジェクトDeath Penalty Due Process Review Project」の死刑制度の運用に関する調査項目を参照したい。ABAは、死刑存置州の死刑制度につき、適正手続が実現できているかという観点からの検証調査を行っているが、そのために13 の調査項目を設け、それぞれの項目について、適正手続保障のために、どのような基準を満たさなければならないかを詳細に説明している。ABAの上記基準や、ABAの「死刑弁護プロジェクト」、その他各州における死刑弁護の実践や学術研究を参照して深化させ、捜査・公判・上訴・再審という刑事手続の各段階において、どのような点が遵守されている必要があるのかという基準を考えていきたい。 第二に、終身刑の手続の在り方についても検討を行う。その際にイギリスにおける終身服役命令(Whole Life Order)が付された終身刑の判決後の手続の在り方をも研究することにより、終身刑の手続の在り方について、死刑の手続と異なるところはあるのか、異なるとすると、終身刑の手続についてどのような考慮が必要なのかについて、検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計算の誤差により差額が発生してしまったが、金額自体は大きくなく、次年度に繰り越して使うことができる。
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