本研究は、死刑の言い渡しが問題となる事件における手続のあり方について、日本の現状や海外における最新の動向を踏まえて検討することを目的として行われた。死刑制度の存廃に関する抽象的な原理論争を超え、手続のあり方を軸に日本の死刑制度を客観的・国際的な視点から俯瞰して問題点を明らかにするとともに、死刑の手続の適正さを確保するための方策を提案することを目指した。さらに、死刑の代替刑として一部の諸国で採用されている終身刑に関してもどのような手続が必要かという点についても研究を進めた。
本研究の過程では(1)国内外の文献調査、(2)日本の実際の死刑事件についての聴取り調査・弁護人との意見交換、(3)海外調査(米ワシントン州など)を行い、その成果を学会や講演、論文で随時発表してきた。その上で、最終年度である2019年度は研究の集大成として、論文「死刑事件と適正手続:アメリカにおける議論の現状」を公表したほか、翻訳を担当したデイビッド・T・ジョンソン著『アメリカ人のみた日本の死刑』(岩波新書)を出版することができた。死刑と終身刑それぞれの手続問題については、各地の弁護士会(日本弁護士連合会、大阪弁護士会、京都弁護士会、中国弁護士会連合会等)、学術研究会にて講演や研究発表を行った。さらに欧米だけではなくアジアにおける死刑存置国の議論状況を調査するため、2019年9月には台湾にて死刑に関する実態調査を行った。
本研究では、日本の死刑事件の手続の早急な改革が必要であること、死刑事件に「特別の手続」を保障すべきこと、判決確定後の手続を整備することの重要性を改めて確認することができた。また、終身刑については今後、日本においても導入すべきかという点をめぐる議論が行われる可能性があるが、その際には欧米における判決後の見直しや早期釈放のあり方についての議論を踏まえる必要があることも明らかにされた。
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