研究課題/領域番号 |
17K13643
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
温 笑トウ 東北大学, 法学研究科, 准教授 (80754548)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 開示規制 / 虚偽記載 / コーポレートガバナンス |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度の研究を通じて得られた仮説(開示規制は行為規制の実現手段)を比較法的手法を用いて検定を行い、その結果、以下の実績を得られている。 第一、Paul G. Mahoney, Mandatory Disclosure as a Solution to Agency Problems, U Chi L Rev(1995)という論文を基礎に、1933年証券法とアメリカ1934年証券取引法の立法とエージェンシー問題を調査し、アメリカ証券法年立法の背景には、イギリス会社法を参考に、エージェンシー問題を対処するための行為規制の目的があったことが判明した。 第二、1933年法と1934年法の制定後、Proxy Regulations、Williams Act、SOX Act等の重要な法改正が行われたが、いずれも開示規制でありながら、コーポレートガバナンスを意識した法制度であることが判明した。 第三、連邦会社法に関するアメリカの論争を整理し、開示規制は、間接に会社及び経営者の行動を影響するのみならず、直接会社の行動を規律する効果もあることが判明した。すなわち、虚偽記載責任を通じて、善管注意義務違反及び忠実義務違反の責任を追及する実務があり、救済手段の代替性があることを発見した。かかる発見の下で、今後の研究の推進のために、アメリカの証券法、とくに虚偽記載責任の構造を把握し、日本とアメリカの比較を行い、「訂正開示と因果関係ーー日米比較法研究」を題とする英語報告を行った。 第四、第三の研究を基礎に、今後の研究の推進のために、日本の虚偽記載責任の構成要件について再検討を行い、「虚偽記載の可能性を認識して株式を取得したものの保護」を題する論文を執筆し公表した。また、非財務情報(コーポレートガバナンス情報を含め)の虚偽記載による損害賠償の可能性についても調査し、現在、論文誌執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は当初の計画以上に進展していると評価した理由は以下の三つである。 第一、申請時の構想では、開示規制と行為規制の関係を説明するための立法背景として、日本でよく言われている2002年のSOX法以降の立法実務を調査するのみであったところ、実際に調査した結果、1930年代証券法制定当時から、もはやコーポレートガバナンス規制が意識されていたことがわかり、そのため、2002年以前の資料の整理も含めて整理した。 第二、従来の研究計画は、開示規制による会社及び経営者の行動への間接的な影響しか視野に入れていないが、本年度の調査によって、開示規制が、直接会社の行動を規律する効果があることが判明した。かかる調査結果は、「開示規制は行為規制の実現手段」という本研究の仮説を根拠づけ、その重要性と説得力を増した重要な発見である。 第三、上記二の発見を鑑み、虚偽記載責任と善管注意義務・忠実義務違反との関係の調査が必要となり、すなわち、善管注意義務・忠実義務違反が起因・動機となる虚偽記載の普遍性を探求し、当時予定の調査内容が拡大された。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、今年度の研究成果・発見をもとに、開示規制のエンフォースメント及び規制違反の責任と、行為規制との関連性について調査を続ける予定である。 具体的には、まず、企業行動研究については、スタンフォードロースクールのデータベース(http://securities.stanford.edu/ハーバード大学からアクセス可能)を利用して、2018年度にアメリカで起きた虚偽記載に基づく損害賠償訴訟(400件ほど)をベースに、虚偽記載の起因を分類化して、企業の行動を分析し、開示規制が失敗する原因(あるいは虚偽記載責任の発生原因・動機)を探る。 次に、ケーススタディーにおいては、上記事例をベースに、開示規制への違反が生じた場合、会社法に基づいて損害賠償請求訴訟を提起するときと、証券法に基づいて提起するときと比べて、原告適格要件、主観要件、因果関係の立証責任の帰属及び損害賠償の範囲の違いを分析することを予定しています。救済の段階における、開示規制と行為規制の代替性及びの範囲を調査する。 最後に、非財務情報(コーポレートガバナンス情報を含め)の虚偽記載による損害賠償責任の構成要件及びその範囲を探るために、アメリカ判例法を調査し、日本において当該類似する訴訟の発生の可能性と対処方法を、アメリカの経験を踏まえ、検討し小論文を執筆する。 かかる研究にあたり、法解釈という伝統的な研究アプローチを用いて議論することも十分価値があるが、それに加えて、法と経済学の観点から議論されることを予定しているハーバード大学の受け入れ教員のMark Ramseyer 教授と同大学のAllen Ferrell教授等からご指導ご助言を継続的に賜る予定である。 最後に、中国法への調査を開始し、開示規制と行為規制の代替性につき、中国での判例を収集し、日本及びアメリカとの相違点を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:30年度より2年間アメリカの研究機関で調査及び研究を実施するために、29年度に国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)を申請したが、それが認められなかったため、次年度の研究費が不足していることがわかった。アメリカでの在外研究を継続するために、当年度の所要額から、一定の額を次年度にまわすことにした。
次年度の使用計画:書籍の購入代金、パソコン及びSONYデジタルペーパーの購入代金などに使用する予定である。
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