本研究は、証券市場における開示規制の正当化根拠として、投資家への投資判断の材料を提供する手段という従 来の位置付けだけではなく、行為規制の実現手段という新たな位置づけを与えるべきことを提唱し、そのメカニズムを解明することを目的とする。情報の「量」を求める観点から、この約100年の間に、年次報告書をはじめとする各種の提出書類において、企業のガバナンス情報からESG情報まで、開示すべき非財務情報の範囲が膨らんでいる。本研究は、これらの非財務情報のうち、新株発行手取金の使途、ガバナンス報告書、内部統制報告書、役員の報酬及びESG情報を個別に検討をし、それらに対する開示規制について、特にエンフォースメントの角度から、虚偽記載の民事責任を基礎とする財務情報にかかる開示規制との違いに注目し、その役割と限界を検証した。結論としては、非財務情報の開示規制は、企業の行動に対して、絶大的な影響力を持つことは明らかにされる一方、投資者保護の角度から、非財務情報の有効利用と開示される非財務情報の信憑性の確保を目的とするハートローまたはソフトロー上の保障は遥かに不十分であり、そのことは、行為規制の実現手段として非財務情報の正当化根拠を弱める原因に繋がる。これを改善するために、機関投資家の活躍が期待されうるものの、その機関投資家の行動もまた彼らを対象とする開示規制によって左右されており、その開示内容の有効性と信憑性をどう確保するかが次の課題となる。
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