研究課題/領域番号 |
17K13645
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
高 秀成 金沢大学, 法学系, 准教授 (50598711)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 権限濫用法理 / 公法と私法の相互影響 / 一般理論 / 権利濫用理論 / 裁量統制 / 善管注意義務 / 自己の財産と同一の注意 / 寄託 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、フランス公法における権限濫用法理生成過程における黎明期から、権限濫用法理の私法への初期の波及の態様についての研究に注力した。 そのなかで、初期においては、むしろ公法における権限濫用が、私法上の権利濫用論を参照する、あるいは相互比較研究が隆盛であった点、当初、権限濫用と権利濫用が類似する法理とみられていた傾向から、徐々に権限濫用法理の特殊性が認識されていく過程が明らかになった。このような過程を経て、20世紀初頭に、私法分野で権限濫用法理を独自のものとして、応用する研究が現れ始めた。とりわけ、労働法分野、会社法分野におけるテーズにおいて、かかる視点が明確に打ち出されていることが確認できた。しかし、これらテーズの問題意識は、当時、権限濫用法理を権利濫用法理に包摂するジョスランの多大な影響力を持った(権利の相対性に関する)研究に覆い隠され、少なくとも20世紀前半期まで私法分野において定着することはなかったものと分析される。 このほか、平行して、現在の公法における権限濫用法理の衰退減少についても調査を進め、権限濫用法理の今日的意義を模索した。そのなかで、裁量統制のなかでの権限濫用法理の位置付けに関する関心を、私法理論に応用すべく、注意義務違反と内部的権限濫用の機能分担研究の基礎づけのため、善管注意義務違反の研究に着手した。この点は、当初の研究構想をやや拡げたものに位置づけられる。そのなかで、無償寄託契約における「自己の財産と同一の注意」から照射することにより、合意と善管注意義務の連関や、義務違反の判断プロセスの枠づけの可能性について分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の研究は、主に行政法分野、そして民法のみならず会社法や労働法を含む私法分野における資料収集および調査、分析に充てられた。また、研究遂行上、善管注意義務や内部的義務との関連にまで対象を拡張することができ、当初の予見に反して、権限濫用法理を多角的に分析する視角を得ることができた。平成30年度はフランスへの渡航を予定していたところであるが、想定以上に国内で収集・調査すべき資料が拡大したため、より実のあるフランスでの調査を期すべく、次年度に行うこととした。これにより、本研究において限られたフランスでの調査において行うべき課題がより明確になり、集中的な調査・資料収集が可能になったものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、まずフランスでの調査を遂行することが予定されている。そこでは、フランス私法における権限濫用法理の今日的位置付け、公法と私法における一般理論をめぐる対話の位置付け、以上の点に焦点を絞って調査を行うこととする。その際、フランス在外研究中の民法学者の協力を得て、複数のフランス民法学者からの回答を確保することを予定している。また、本研究の開始の後、浮かび上がった課題として、フランス債務法改正における代理権濫用規定新設(より広くは代理法の制定)の分析と評価の問題がある。この点についても、可及的に資料収集・分析を行い、現在の権限濫用研究に接続を行うことを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に予定していたフランス渡航を、研究遂行計画の進行に合わせ、より実りのあるものとすべく、次年度に繰り延べた。他方、平成30年度は想定以上に、国内で収集・調査すべき文献の増大があったものの、平成30年度に使用予定であった海外渡航費を一定額、残しておく必要が生じた。そのため、次年度使用額が生じている。次年度使用額は、フランス渡航費と現地での資料収集・調査に充てられる予定である。
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