研究課題/領域番号 |
17K13650
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
川嶋 隆憲 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(法), 准教授 (50534468)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 民事訴訟法 / 裁判上の和解 / 裁判外の和解 / ADR / ADR法改正 |
研究実績の概要 |
2018年度は、ADRが訴訟と並ぶ有力な紛争解決の選択肢となるための理論的基盤の構築を目的として、2つの異なる問題領域に関して、わが国の解釈論および立法論を踏まえた検討を行った。 第1は、訴えの提起に先立って裁判外の紛争解決手続を利用すべき旨の当事者の合意(ADR前置合意)の訴訟法上の効力に関する考察である。ADR前置合意に一定の法的効力を認めることは国際的な潮流であるとの問題認識の下、わが国の解釈論としても、当事者間の合意が所定のADR手続を履践するまでの間における訴訟手続の利用を制限する合意(提訴制限合意)を含むものである限り、その意思に応じた訴訟法上の効力が認められると解するのが相当であること、また、そのようなADR前置合意の実効性を担保する訴訟運営のあり方として、受訴裁判所において所定のADR手続を先行させることが適当と認められる場合に訴訟手続を暫時中止するという権能を認めることが相当であること、を理論的に基礎づけることを試みた。 第2は、和解目的で開示された情報の訴訟手続等における利用制限ルールに関する考察である。和解やADRにおける紛争当事者間の率直な話し合いを促進するためには、和解プロセスにおいて相手方に開示した情報が後の訴訟手続等において自己に不利益に利用されないとするルールの整備が課題であり、同種のルールは国際商事調停に関するUNCITRALのモデル法においても採用されているところ、日本における導入については慎重な意見もあり、わが国の実状に即した建設的な議論の継続が求められる状況にある。海外における同種ルールの実相を整理・分析するとともに、これまでの議論の経緯を踏まえて、国内法としての制度設計の可能性について提言を行った。 上記の調査・研究の成果は二つの論説にまとめ、一つは既に公表し、一つは2019年度の公表を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度は、ADR法の改正機運を背景として、かねてより立法論の一つとして議論を呼んでいた、和解目的で開示された情報の訴訟手続等における利用制限ルールに関する分析と考察に注力した。その結果、上記テーマに関しては一定の成果が得られた一方、当初予定していた、ADRと訴訟手続との間の協同・連携に関する海外の法事情の調査を進めるには至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、2018年度の積み残し部分である、ADRと訴訟手続との間の役割分担ないし協同・連携に関する海外の法事情の調査に着手する。ADRと訴訟手続との連携の形は、国や地域によって、また、紛争類型によっても様々であることが予想されるが、諸外国に見られる実践と課題の中に、わが国におけるADRと訴訟手続の望ましい連携のあり方を考える手掛かりを見出すことができると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、当年度の研究計画の一部が次年度に繰り延べられたことによる。 上記次年度使用額は、主として次年度の調査旅費に充当する予定である。
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