研究課題/領域番号 |
17K13651
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
星 明男 学習院大学, 国際社会科学部, 准教授 (10334294)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | M&A契約 / 契約解釈の方法 |
研究実績の概要 |
本年度は、欧州での比較契約法の議論状況の調査・研究を主として行った。欧州の比較契約法では、契約解釈の方法に主要法体系の間で明確な差があることが明らかにされている。 普通法(common law)の伝統的な解釈方法は、契約書の文言を重視し、契約書の文言とは異なる請求は認めない「文言主義(literalism)」と呼ばれるアプローチである(もっとも、英国でも1998年のInvestors判決以降、文言主義と後述する客観主義との間で解釈が揺れ動いている)。契約内容が争われる際に契約書以外の証拠を原則として認めないパロル・エビデンス・ルールが、文言主義と補完的な関係を形成している。 フランス法系では、契約当事者の意思を重視する「主観主義(subjectivism)」と呼ばれる立場が採られている。文言主義とは対極的に、契約書は契約当事者の意思を推測するための証拠方法の1つに過ぎず、契約交渉の経緯や口頭での合意内容も証拠として排除されない。 ドイツ法系では、契約の解釈において、契約書の表現を重んじる点では文言主義と共通するが、文言に拘泥せず、契約の目的や契約締結時の状況を考慮に入れることが強調されている。「客観主義(objectivism)」と呼ばれる立場である。他の2つに比べて、契約の解釈を通じた裁判官による契約内容の補充や修正を認める余地が大きいのもこの立場の特徴である。 日本の契約解釈の方法は、旧民法の起草当初はボワソナードの影響により主観主義の立場が採られていたが、1920年代頃から我妻栄によって主張されたドイツの客観主義の立場が支配的になり、現在でも裁判所に受け入れられている。これに対して、日本のM&A契約は、英米法での文言主義による契約解釈を前提としたドラフティングが行われており、契約書のドラフティングと解釈との間に、(明確に認識されていない)溝が生じている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度の研究で英米法の契約解釈原則と大陸法の契約解釈原則の違いが、日本の裁判所によるM&A契約の解釈に困難をもたらしている大きな要因である可能性があることがわかったため、当初の研究計画を変更し、本年度は、欧州での比較契約法の議論の調査・研究に時間を費やした。平成30年度中にこの部分の成果をまとめる予定であったが、執筆の遅れにより、平成31年(令和元年)度にも継続している。もっとも、令和元年6月にシンガポールで開催される学会では、平成30年度中の成果を英文のワーキング・ペーパーとして報告する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果部分は、シンガポールでの学会で報告した後、学術誌への投稿を予定している。その部分がまとまった後は、当初の計画では平成30年度に予定していた経済分析モデルの批判的検討に早急に着手したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、年度内の執行を予定していた物品の購入が4月にずれ込んだことと購入予定だった書籍の出版が遅れたことである。残額は、主として、書籍の購入と学会参加の旅費に充てる予定である。
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