研究課題/領域番号 |
17K13652
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
大塚 智見 上智大学, 法学部, 准教授 (20707509)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 委任の本旨 / 委任の範囲 / 委任者の指図 |
研究実績の概要 |
平成29年度には、主に委任の基礎理論につき研究を実施した。そもそも委任とは何かという問題に対して、従来の議論とは異なり、受任者の債務の観点から検討することによって、一つの視座を得ることができた。 第一に、委任者の指図に着目して日本における委任法の歴史を探った。これにより、起草過程および起草直後の学説には、近時の通説とは異なる委任論の型があることを発見し、比較法を行う上での新しい観点を得ることができた。 第二に、このような観点のもとで、主に18世紀以降のフランス法およびドイツ法における委任論を分析した。フランス法では、委任の類型によって委任の範囲を定め、受任者にはその委任の範囲を越えてはならないという義務を課すことによって、委任者によるコントロールを及ぼしていた。これに対し、ドイツ法では、委任者の指図に従う義務を受任者に課すことで、委任者によるコントロールを確保していた。フランス法は契約締結時の意思を重視し、ドイツ法は契約締結後の意思をも重視するとの相違がみられつつも、近時では両者の議論に類似性が見出すことができ、また、両者の基礎にある思想にも共通性が存在した。 第三に、比較法により得られた知見から、日本法の解釈論を導いた。すなわち、委任においては、受任者のなすべきことは委任者が決定すべきとの思想と、受任者にある程度の自由を与えることで委任者の真の意思を実現するとの思想の二つが共存し、それゆえ、受任者は、委任者が契約締結時に与えた委任の範囲を越えてはならないとの厳格な義務を負いつつ、その枠内では、委任者の事後的な指図に配慮しつつも、委任者の真の意思の実現のために自由な権限行使が許容される、というものである。 以上の成果は、「委任者の指図と受任者の権限(1~3・完)」法学協会雑誌134巻10号1851頁、11号2115頁、12号2367頁として公表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初の計画のうち、ローマ法に関する研究に着手することができず、また、委任とは何かをめぐる議論についても最終的な結論を出すに至らなかった。日本法における委任の本旨や委任者の指図といった議論、また、フランス法およびドイツ法における委任の範囲や委任者の指図の議論を精査することによって、当初予期していたよりも豊富な知見を見い出すことができたことが原因である。それゆえ、当初の計画とは進行方向が多少異なるものの、むしろ委任の本質論に近づくための成果を積み上げることができたと考えられ、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、委任とは何かについての議論をさらに深めることを目指す。 第一に、受任者が負う他の義務や、代理論、事務管理論を検討し、委任の意義について一定の結論を見い出すことを目指す。この成果は、平成30年度の私法学会において報告する予定である。 第二に、当初の予定を一部変更し、ローマ法まで遡る歴史研究は、近時の議論をまとめた後に行うこととする。近時の議論を整理することによって、むしろローマ法研究の視座を得ようとするねらいからの変更である。 第三に、死後事務委任や任意後見契約などの各論的考察は、第一第二の研究と並行して行っていくこととする。これらの議論を考察する機会は多く、また、委任論と行ったり来たりすることによって、双方の議論に対する視野を広げることができると思われるからである。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度内に公刊される書籍のために残していたが、利用期限までの公刊されなかった。書籍購入に充てる予定。
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