研究課題/領域番号 |
17K13654
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
中本 香織 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 講師(任期付) (10758064)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 当事者適格 / 訴訟追行権 / 実体適格 / 訴訟担当 |
研究実績の概要 |
本年度は、日本における「当事者適格」概念の意義及び内容を明らかにすることを目的として、研究を進めた。わが国の民事訴訟法の母法であるドイツ民事訴訟法では、正当な当事者及び訴訟追行権の概念は存するが、わが国の当事者適格に相当する概念がない。しかしわが国では、この二つの概念と当事者適格とが、同義のものであると理解されている。もっとも、果たして当事者適格と訴訟追行権とは同義に捉えることができるのかは、確立した判例(最大判昭45・11・11民集24巻12号1854頁、最判平26・2・27民集68巻2号192頁等)が示す当事者適格の判断基準との関係で疑問が残る。 そこで、本年度はまず明治期からの当事者適格の理解の変遷を追い、わが国で当事者適格概念が用いられることになった要因の解明を試みた。その結果、兼子一「訴訟承継論」法協43巻4号(1931)が、訴権論に関する権利保護請求権説の立場を離れ本案判決請求権説を採用したこと、併せて、訴訟物に関する利害関係人として本案判決を受けうる適格と定義した当事者適格を、権利保護要件でなく訴訟要件であるとしたことが、大きく影響していると推測されることを明らかにした。 また、当事者適格の内容・判断要素については、末弘厳太郎=田中耕太郎編『法律学辞典 第三巻』〔兼子一〕(岩波書店、1936)が、当事者適格概念の内容に、誰に対して判決をすべきかという観点を取り込んで以降、学説及び上記最高裁判例も、他人の権利関係を訴訟の目的とする場合の当事者適格については、訴訟追行の側面だけでなく、判決の名宛人も考慮した上で紛争解決に資するか否かを考慮するものであることを示すに至ったことを明らかにした。さらに、このような当事者適格の内容・判断要素の理解は、近時の当事者適格の議論、法人の理事たる地位を確認する訴訟における当事者適格に関する議論と整合的であることについて検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、①いかなる場合に第三者に帰属する権利を訴訟上行使することができるかという「他人の権利関係を目的とする訴訟での当事者適格」と、②いかなる場合にその他人に判決の効力が及ぶかという「判決の効力の主観的範囲」の関係性の全体構造を明らかにすることを目指すものである。昨年度は②に重点を置いて研究を行ったが、本年度は、特に①に重点を置きつつ、他人の権利関係を目的とする訴訟での「当事者適格」概念について、歴史的・比較法的観点から分析・検討を行い、その結果を公表することができた。また、その検討の中で、①と②の関係性を明らかにすることができたため、順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成31年度は、研究のとりまとめと発信に重点を置く。 特に、本年度は歴史的・比較法的観点からの分析を中心に行った上記①と②の関係性について、理論的検討をさらに進めたい。 研究成果は論文として公表する予定であり、このための準備として、複数の研究会での報告を予定している。
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