本研究は、いかなる場合に他人に帰属する権利を訴訟上行使することができるかという第三者の権利関係を目的とする訴訟の当事者適格と、いかなる場合にその他人(本来の権利帰属主体)に判決の効力が及ぶかという判決の効力の主観的範囲の関係性の全体構造を明らかにすることを目的とするものである。 2017年度は、我が国の訴訟担当概念が母法ドイツ民訴法における訴訟担当概念と異なる内容を有するものであることに着目し、権利帰属主体への既判力拡張を伴わない「並存的訴訟担当」概念を認めることで、民法(債権法)改正後の債権者代位訴訟における代位債権者と債務者の訴訟上の地位を説明することが可能となるとの解釈を提示した。2018年度は、ドイツ民訴法には対応する概念が存しない、我が国で用いられる「当事者適格」概念が、いかなる過程で生成・常用されるに至ったのか、ドイツ民訴法で用いられる訴訟追行権概念及び実体適格概念との乖離が生じた原因は何かを明らかにした。 最終年度である本年度は、本研究の開始前に提示していた解釈の一般化を試みた。具体的には、権利能力なき社団の登記請求訴訟において社団に原告適格を認めるための法律構成と、社団を名宛人とする判決の効力が構成員全員に及ぶ根拠について、給付訴訟一般においても妥当する解釈であることを検討した。検討を行うにあたって、給付訴訟における権利能力なき社団の原告適格を肯定した最判平23・2・15判タ1345号129頁及び従前の学説の分析を行い、金銭債権等の給付訴訟においても、社団が訴求しているのはあくまで構成員に総有的に帰属する権利であることが前提であり、当該財産に関しては社団に財産的独立性が認められ、その結果社団に固有の訴訟追行権が認められること、また、上記最高裁判決では示されていないが、当該訴訟において社団に対しなされた判決の効力は、背後にいる構成員にも及ぶとの解釈を示した。
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