本年度は、これまでの2年間で行った系譜的・比較法的研究の成果をもとに、著作権法15条1項の要件・効果をめぐる具体的な問題について検討を行った。 第1に、法人等の著作名義要件について、わが国でこれまで同一視されてきた著作の名義と著作者名の相違を明らかにした。また、職務上作成される著作物に従業者の氏名と法人等の名称が併記されている場合、および法人等が職務上作成される著作物の公表を全く予定していない場合の本要件の解釈指針を明らかにした。さらに本要件に関連する問題として、旧著作権法下で映画製作会社の著作名義で公表された映画の著作物の著作者および存続期間の算定のあり方について検討を行い、その成果を論文として公表した。 第2に、法人等の発意要件および従業者の職務上作成要件について、これまであまり意識されてこなかった両要件の相関関係を明らかにし、両要件の判断を相関的に行っている近時の裁判例について検討を行った。 第3に、法人等の著作者人格権の法的性格について、従来考えられていたような創作行為を通じて著作物に刻印された法人等の人格的利益を保護する権利では必ずしもなく、むしろ当該著作物の作成責任者として有する利益の保護を目的とした権利であることを明らにした。
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