今年度は、(1) 多層的規制と公益性との因果推論、(2) 仏・欧の事例研究、(3) 仏・欧の科技イノベ政策推進体制の3観点から研究に取り組んだ。今年度も引き続き、本研究を基課題とする「日・仏・欧比較による多層的規制モデルの構築」を兼ねてフランスに滞在している。 (1) フランスの地方鉄道を事例に、その利用者満足度と定時運行率の向上が、①国から各州(地方圏)政府への運行権限の委譲、②国と州政府による財政的負担、③欧州連合のルールに基づく上下分離と競争入札の導入によって実現していると考察した。このことは、①地方鉄道には公的資金によって支えられるべき特性があることと、②それを負担する広域自治体とその住民らが総合的な交通計画を立て、資源配分の政策判断を下せる仕組みが必要であることを示唆している。 (2) フランスの交通政策では、上記のように、政府間関係と官民関係を戦略的かつ合理的に組み合わせる制度設計が重要と考えられた。これを受け、それを取り巻く諸制度についても情報収集を行った。これについてはまだ成果発表に至っていないが、例えば、①欧州連合による交通輸送の自由化、②マクロン政権による新自由主義的政策、③その中での独立規制機関の役割などがその対象である。ここからは、新自由主義と公益実現の間の因果推論の可能性も示唆される。今年度はこれに加え、仏・欧における希少動植物種保護規制の実施状況についても調査・分析した(この成果は『北大法学論集』で発表)。 (3) 前年度までに取り組んだ日本の内閣主導による科技イノベ政策との比較を念頭に、欧州の多層的なその政策推進体制の情報収集を行った。欧州の科技イノベ政策の枠組みであるHorizon Europe(2021~2027年)を推進する欧州イノベ理事会(EIC)を中心に、科学政策当局、加盟各国政府、多様なベンチャーなどの連携態様について調査・分析を進めた。
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