今年度は、昨年度に出版した著作の延長線上で研究を進めた。日本の公務員制度を考える時、そこでの女性の過少代表の背後に男性優位のジェンダー規範の影響があるのは明らかであった。問題は、そのメカニズムである。この問題に関して、従来の研究が結局のところ決定的な成果に至っていないのは、おそらく女性の進出のメカニズムの方に注意を集中しているからであったと思われる。だが、やはり考えなければいけないのは、日本においては男性を保護するメカニズムが強力に作用するメカニズムがあったということであろう。年功序列や終身雇用といった仕組みが男性に有利に作用するのは、すでに各方面の研究で指摘されていることであり、これ以上に目新しい知見が出る余地はあまりない。むしろ問題は、それを突き崩すような変化が起きていないことの方ではないか。特に日本の場合、欧米諸国における1970年代の経済危機や、韓国における1990年代の通貨危機のような、男性支配の構造そのものを揺り動かす危機が起きていない。そうであるとすると、行政組織における男性優位はおそらく、この日本社会全体を貫く男性優位の延長線上にあるに過ぎないのかもしれない。となれば、注目するべきは「女性の進出」をもたらすメカニズムが働かない原因ではなく、「男性の退場」をもたらすメカニズムが働かないことの原因なのではないか。こうした仮説の下、日本の行政における男性優位の一端を解明する作業に着手できるようにも思えたが、これは日本の公務員制度の特徴を重視していた当初の仮設を大幅に修正するものとなる。ここに至って、今回の研究期間は事実上の時間切れとなった。残念ではあるが、今後の研究へと問題意識を引き継いでいくことにしたい。
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