研究課題/領域番号 |
17K13671
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松林 哲也 大阪大学, 国際公共政策研究科, 准教授 (40721949)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 投票参加 / 所得格差 / 寿命 / 投票制度 |
研究実績の概要 |
本研究は、(1)社会の所得格差の拡大、(2)健康寿命の進展、 (3)期日前投票制度の創設、という有権者を取り巻く環境変化が投票率に与える影響を調査している。各課題の実績を以下にまとめる。 *所得格差:所得格差の拡大に伴って参加格差が大きくなり、その結果として全体の投票率が減少するという仮説が先行研究により提示されてきたが、この仮説を検証した過去の国際比較研究は一致した見解を示していない。近年の世界規模での所得格差の急激な拡大を踏まえると、所得格差と参加格差の関係を理解することは学術的・社会的に意義が大きい。そこで本研究は大規模な国際比較データを用い、所得格差の拡大が有権者の投票参加にどのような影響を及ぼすかを分析している。 *健康寿命: 投票率は加齢と共に上昇し、65歳前後からは低下する傾向にあることが知られてる。しかし、経済発展の進展や医療技術の進歩のおかげで有権者の健康寿命が伸びたことにより、投票率が低下するタイミングが変化している可能性がある。投票参加における年齢や健康の役割はこれまでたびたび論じられてきたが、健康寿命の進展とともに年齢の影響が変化するという可能性は検証されていない。そこで、本研究は大規模な国際比較データを用い、健康寿命の進展が高齢者の投票参加にどのような影響を及ぼすかを分析している。 *期日前投票制度:2003年の期日前投票制度の創設の結果、投票するタイミングや場所の選択肢が増えたことにより普段は投票に行かない人々が参加するようになったのであれば、投票率は向上したはずである。一方、この制度を利用しているのが普段から投票に行く人々であれば、投票率は大きく変化していないと考えられる。これら2つの仮説のどちらが現実とより整合的かを確認するために、2005年から2014年にかけての衆院選における市区町村パネルデータを構築して分析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
*所得格差: 所得格差の指標であるジニ係数とComparative Study of Electoral Systems(CSES)の個票データを組み合わせて、計量分析を行っている。現時点では、①所得に基づく参加格差は世界各地で見られること、②所得格差の拡大にともない参加格差が縮小するという結果が得られている。 *健康寿命:WHOの平均寿命データとComparative Study of Electoral Systems(CSES)の個票データを組み合わせて、計量分析を行っている。 *期日前投票制度:計量分析から、市区町村内の期日前投票所数の増加により投票率が上昇したという暫定的エビデンスが得られた。具体的には、有権者1万人あたり期日前投票所数が1つ増えると、投票率は約0.5%ポイント上昇することがわかった。ただし推定効果やその統計的有意度は対象とする市区町村や選挙年により変化するため、結果の頑健性は高くない。一方で、選挙日投票所数の効果も正に推定されており、その推定値はサンプルを問わず安定しており統計的に常に有意である。有権者1万人あたり選挙日投票所数が1つ増えると、投票率は少なくとも約0.2%ポイント上昇する。本稿の分析結果は、期日前投票制度の充実が投票率向上のための有効な政策手段となる可能性を示している。ただしこの結論は暫定的であり、さらなる効果検証が必要である。また、設置コストや介入効果を考慮すると、期日前投票制度の充実は選挙日の投票所設置と関連付けて検討すべき課題であると言える。このプロジェクトの成果は『選挙研究』に査読付き論文として掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
*所得格差:所得格差の拡大にともない参加格差が縮小することという結果が得られており、なぜこのような関係が生じるかのメカニズムを分析する予定である。具体的には、所得格差の拡大は高所得者と低所得者のどちらにより大きな影響をおよぼすのか、またなぜ特定の所得層がより大きな影響を受けるのかを引き続き調査していく。また投票参加以外の政治参加形態にも目を向け、所得格差の拡大により参加格差が変化するかも検証してみる。投票外参加の分析にはWorld Values Surveyデータを使用する予定である。また所得格差以外の経済変数が投票参加に与える影響を統制するために、Penn World Table 8.1に含まれるGDP成長率などの変数を分析に含める。 *健康寿命:計量分析を終わらせ、その結果を論文としてまとめる。また投票参加以外の政治参加形態にも目を向け、健康寿命の進展により年齢と投票外参加の関係が変化するかも検証してみる。投票外参加の分析にはWorld Values Surveyデータを使用する予定である。 *期日前投票制度:『選挙研究』に発表した論文では市町村内の期日前投票所数と投票率の関係に注目した分析を行ってきた。これまでに構築したデータベースには期日前投票所の場所の情報も含まれていることから、設置場所の利便性が投票率に与える影響も調査する。特に駅やショッピングモールに設置された期日前投票所が投票率により大きな影響を与えるという可能性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 物品費と旅費が予定よりも少なかったため、未使用額が発生した。 (使用計画) 事務補佐員およびRAの雇用の経費として使用する予定である。
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