本研究の目的は、サービス経済化・価値観の変容・脱国民国家化およびその反動によって政治的対立軸がどのように変化し、その変化が福祉国家のあり方にどのような影響を与えてきたのかを探ることにある。ここで焦点を当てるのは、①有権者レベルでの政策選好および対立軸の変化、②そうした有権者の政策選好を実際の政策へと変換する政党システムレベルの政策対立軸、③そして政策対立軸の変化を受けた福祉国家の再編成である。この作業を通じて、有権者および政党レベルでの対立軸の変化と競争空間の変容を理論化してきた政党システム論の研究成果を比較福祉国家研究へと架橋し、近年の福祉国家再編成を規定してきた要因を明らかにすることを目的としている。 2021年度は、経済的左右軸中心の一次元的対立軸から、文化的対立軸を含んだ二次元空間への変容が、政党システムの再編成と福祉国家の再編成に与える影響を探った。 具体的には、職業威信の上下を意味する垂直的職業階層と、その職種が行うタスクの違いを意味する水平的職業階層の二次元によって分類した職業階層分類が、経済的次元と文化的次元での政策選好に与える影響を探り、ポピュリスト政党支持の強弱につながるメカニズムを、欧州社会調査の第4波~第8波のデータを分析を通して探った。 また、1980年代以降の先進工業諸国における積極的労働市場政策を対象とした分析を行い、若者・女性・移民が中心となる労働市場の「アウトサイダー」が主対象となる積極的労働市場政策に対する経済的左右軸および社会文化的対立軸上の政策位置が政策アウトプットに与える影響を探った。そして、1985年から2017年までの先進工業21カ国のデータを分析し、再分配の次元よりも、社会文化的価値次元における政権与党の政策位置のほうが積極的労働市場政策により強い影響を与えていることを明らかにした。
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