計画最終年度として種々の成果報告や研究蓄積に努めた。選挙動員が人々の多様なナショナリズムを強める(あるいは弱める)影響について,政党支持と政治関心に着目した論考を『比較政治学会年報』より刊行した。通常,政治意識は政治行動に先行すると想定されているが,選挙という政治行動が政治意識を形成する逆の因果関係の効果も(全面的にではないにせよ)存在することを実証的に明らかにした。 また,ヨーロッパ全体の多国間比較をEuropean Value Survey ならびにEuropean Social Surveyで統計的に行い,右翼政党支持,反移民感情,欧州懐疑感情の相互関係について世論調査を通じた実証的分析を行った。欧州における右翼政党支持は,社会経済的劣位性や,移民によって仕事が奪われるといった意識よりも,移民によって自国文化が棄損されるという意識と,欧州統合や欧州機関に対する政治的不信によって,より強く説明される。移民が自国文化を棄損するという意識(反移民感情)もまた,巷間指摘される社会経済的劣位性による説明力は低く,むしろ欧州統合・欧州機関への政治的不信の反映であることが明らかにされた。
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