研究課題/領域番号 |
17K13679
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大槻 一統 早稲田大学, 高等研究所, 講師(任期付) (00779093)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 選挙不正 / 選挙監視 / 民主化 / 数理分析 |
研究実績の概要 |
【文献の整理】権威主義体制における選挙監視については近年多くの理論的・実証的研究が公刊されているため、平成29年度はまず最新の研究を随時追加しつつ関連文献の整理を行った。その上で既存の研究と本研究の関係と、リタラチャーの中での本研究の位置付けについて検討を行った。その結果、現在のリタラチャーにおいては選挙不正と選挙監視の多様な形が明らかにされてきている反面、本研究が着目する選挙監視と社会厚生の関係については研究が進んでいないことが確認された。また、研究計画当初は政府(為政者)による直接的な選挙不正のみに着目していたが、文献の整理を通して得た、不正を助ける地方組織や市民の役割についての知見が、今後理論をより幅広い文脈に沿う形で発展させる助けになると見込まれる。 【理論の構築】既存研究の問題点をふまえ、民主的政治基盤の脆弱な政体における、選挙監視の民主的政策(公共財提供)に与える影響を、ゲーム理論を用いて数理モデル化した。具体的には、選挙監視機関が不正をはたらいた為政者にコストを負わせる役割と有権者に不正に関する情報を提供する役割が政策と社会厚生に与える影響を分析し、それが選挙監視機関の性質に依存することを明らかにした。理論から導き出された実証的含意から複数の仮説を構築することができた。 【研究発表】上述の研究結果を二つの国際学会において報告した。今後実証分析のための実験を進めていく上で非常に有益なフィードバックを得ることができた。 【実験デザイン】ケンブリッジ大学において共同研究者と、上述の理論に基いた実験のデザインについて打ち合わせを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画において、本年度は民主的政治基盤の脆弱な政体における、選挙監視の民主的政策(公共財提供)に与える影響を、ゲーム理論を用いて数理モデル化することを最大の目標としており、それを達成することができた。また、複数の国際学会において理論を発表し、今後実証研究に移行していく上で助けとなる助言を得ることができた。また、文献の整理と学会での議論を通じて、選挙不正が達成される過程における為政者以外のアクターによる様々な形での関与についての理解を深めることができた。これは今後研究を発展させていく上で重要な知見である。実証に関しては、実験のデザインの完成については来年度を待つことになるが、今後の方向性を決めるための打ち合わせを英国ケンブリッジ大学において行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
【文献の整理】平成30年度も引き続き選挙不正や選挙監視に関連する論文を購読、図書を購入し、研究に生かしていく。 【実証分析】当初の計画通り、平成30年度は実証分析を重点的に行う。実証分析は実験と観察データによる統計分析を実施する予定である。実験においては、選挙監視機関が与える情報の「偏向」と「精度」の影響に特に着目し、理論が描き出すメカニズムの妥当性を厳密に検証することを目的とする。複雑な数理モデルの実験における再現を保証するために、共同研究者の実験経済学者(ケンブリッジ大学所属)との綿密な打ち合わせを通して実験をプログラムしていく。実験プログラムはまずインターネット上のクラウドサービスを活用したパイロット実験にて検証し、そのフィードバックを実験室実験のデザインに活かしていく。また、観察データによる統計分析においては、国内的な選挙監視機関の党派性(与党系・野党系・独立)に関するデータセットを利用し、選挙監視機関の政治的偏向が政策に与える影響を分析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していたノートPCの新型モデルの発表が遅れ、現行モデルではスペックが不足していることから購入を見送った。繰越分を平成30年度内の新型モデルの購入に充てる。
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