本研究の目的は、日本における「同一労働同一賃金」をめぐる政治過程を韓国との比較で分析することにある。同一労働同一賃金は、安倍政権だけではなく、労働組合、経営側、主要な政党が取り上げているが、その中身は大きく異なっている。従来の雇用慣行では、男女の賃金格差、正規と非正規の格差、世代間の賃金不平等が解決できないという共通認識はあるものの、それをどのようにどこまで改善するかによって、同一労働同一賃金の言説の使い方が異なっているからである。結局、同一労働同一賃金という言説をめぐる対立は、それらの格差を生むとされている従来の雇用慣行をどのように変化させていくかをめぐる対立である。本研究はその政治過程を日本と同様に賃金格差が大きい韓国との比較で分析を行った。 その実績として、韓国における学校非正規労働者の待遇改善と最低賃金の政治過程を日本との比較の視点から分析し、執筆した論文がある。学校非正規労働者は、正規労働者との賃金格差が大きい状況下で、労働組合を自ら組織し、待遇改善に取り組んだ。実際、非正規労働者の賃金が二倍上昇し、雇用安定性が高まった。企業別労働組合の慣行では、同一労働同一賃金の実現のためには、既存の労働組合だけではなく、非正規労働者の自らの取り組みが重要であることを示唆している。 それから韓国の最低賃金の政治過程は、審議会方式という点で類似しているが、近年日本よりもはるかに最低賃金が上昇している。そこで韓国のナショナルセンターは、脆弱な労働者を保護するために、他の団体との提携に取り組み、アウトサイダー戦略を採っていたことが確認できた。世界的に最低賃金が所得保障の主な手法の一つになる中で、労働組合の戦略の重要性を示唆している。
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