研究課題/領域番号 |
17K13682
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
加藤 雅俊 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (10543514)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 現代国家の変容 / 政治秩序の理論分析 / 比較福祉国家論 / 批判的実在論 / 日本の福祉国家 / オーストラリアの福祉国家 / 国家論 |
研究実績の概要 |
2019年度は、現代国家の変容を理論的・経験的に分析するための準備作業として、以下の三つの課題に取り組んだ。 第一に、東アジア福祉レジーム(もしくは東アジア福祉国家)論を批判的に検討し、その意義と課題を析出した。東アジア福祉レジーム論は、文化的要因、社会政策と経済政策の連関、時間的側面などの重要性を指摘する点で、比較福祉国家論を理論的に刷新する可能性を有する一方で、東アジア諸国の固有性を強調するため、その意義を十分に活かしきれていないことを明らかにした。そして、東アジア福祉レジーム論の知見を生かした、新しい福祉国家論の理論枠組を素描した。 第二に、上記の研究で得られた新しい理論枠組を手がかりに、日本の福祉国家の特徴と変遷を分析的に整理した。まず、戦後日本の社会的保護は、市場介入主義的な経済政策を活用し、雇用の創出と維持に力点を置く一方で、公的社会政策は十分に発達せず、家族福祉や企業福祉を活用するという特徴を有することを確認した。しかし、グローバル化とポスト工業化が進むなかで、従来的な経済政策の正統性や有効性が失われたため、安定的な雇用を守り続けることが困難となり、また国際競争が激化するなかで企業福祉も縮小せざるを得なくなっただけでなく、家族の多様化や少子高齢化が進んだため、家族福祉に依存することも難しくなったことを指摘した。そして、社会全体で見ると社会的保護の水準が低下したことに加え、その影響が不均一に生じていること(言い換えれば、社会的分断が生じていること)を明らかにした。 第三に、上記の研究成果をふまえて、戦後社会における政治秩序の変容に関する理論的考察を行った。とくに、政治システムの「インプット」「アウトプット」「前提」の三つの要素に注目し、ケインズ主義的福祉国家の特徴と、競争志向(ポストケインズ主義的)の福祉国家の特徴を対比させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究が予定よりも遅れてしまっている背景・理由として、以下の二つが挙げられる。第一に、研究が進むにつれて、新たな研究課題に直面したためである。現代国家の変容を理論的・経験的に分析するためには、政治学だけでなく、近接する社会諸科学の知見をふまえる必要があることに加え、特定の政策領域だけでなく、それと関連した政策領域の変化、意思決定のあり方やガバナンス構造の変化、市民社会の変容なども射程に収めなければならない。それに伴い、新たな理論研究や経験的調査・分析の必要性が生じた。このように、研究が深まるなかで、当初の課題に適切に取り組むために必要となる新たな論点を発見するということが何度も生じており、結果として当初よりも遅れてしまった。しかし、これは、研究が学術的により有意義なものになったことも意味しており、研究成果がより広い層に影響を与えるものになったと考えている。 第二に、新型コロナウイルスの流行の影響により、国際交流や現地調査が困難となったことが挙げられる。研究成果を国際的に発信し、またこの領域で世界の第一線で活躍する研究者からコメントをもらうことを目的に参加することを予定していた国際シンポジウム(2020年3月に中国で開催予定)および国際会議(2020年3月に京都で開催予定)が、新型コロナウイルスの流行のため、無期限延期となってしまった。また、同時期に、オーストラリアで資料収集を予定していたが、海外出張の自粛要請もあり、中止せざるを得なくなった。国際的なフィードバックを得る機会と現地調査の機会を失ったことは、研究成果を精緻化させる上で大きな痛手となった。
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今後の研究の推進方策 |
残された研究期間もあとわずかであり、また国際交流や現地調査などに関しては、新型コロナウイルスの流行により先行きが見通せないため、手元にある文献や資料と、インターネットを通じて得られる資料・データを最大限活かすことで、研究成果の取りまとめを行いたい。 具体的には、第一に、現代国家の変容に関する理論研究として、政治秩序の変遷に関するこれまでの研究成果を、「国民国家」「政党国家」「福祉国家」といった概念に注目して理論的に深めていくことで、一定の成果につなげたい。第二に、現代国家の変容に関する経験的分析として、日本とオーストラリアにおける福祉国家の変容に関するこれまでの研究成果を、上記の理論研究の知見から再構築することで、一定の成果につなげたい。 理論研究および経験的分析の成果に関しては、国内・国外の研究会や学会などで研究報告することで、国内・国外の研究者からフィードバックを得ることにしたい。そして、フィードバックを活かす形で、研究成果をより精緻なものとしたい。なお、研究の進展に伴い新たなに発見した課題については、今後深めていくために、端緒的な予備調査を行っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由として、新型コロナウイルスの流行により、参加を予定していた国際会議および国際シンポジウムが延期となったことに加え、計画していたオーストラリアでの資料収集も延期せざるを得なくなってしまったことが挙げられる。本年度は、新型コロナウイルスの流行が落ち着き、研究活動が円滑に行える状況になれば、国内・国外の学会や研究会などに積極的に参加したい。また、研究成果を取りまとめる上で必要となる書籍や資料の収集・購入に利用したい。
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