研究課題/領域番号 |
17K13682
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
加藤 雅俊 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (10543514)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 現代国家の変容 / 批判的実在論 / 福祉国家 / 国民国家 / 代議制民主主義 / 自由民主主義体制 / 社会紛争 / 紛争処理 |
研究実績の概要 |
2020年度は、現代国家の変容を捉えるために、以下の研究を行った。 まず第一に、戦後の先進諸国を代表する政治システムである「自由民主主義体制の変遷」に関して、福祉国家論の観点から、そのインプット、アウトプット、前提の変容に注目して分析を行い、以下の点を明らかにした。すなわち、1970年代に完成した「ケインズ主義的福祉国家」の段階では、自由民主主義体制は、国民共同体の安定性、物質主義的価値観、国家優位の政治-経済関係、階級を基礎とした利益媒介、経済成長の実現と豊かさの分配といった特徴を有していた。グローバル化とポスト工業化を経た「競争志向の福祉国家」の段階では、国民共同体の揺らぎ、価値観の多様化、市場メカニズム重視の政治-経済関係、利益媒介の多様化・流動化、社会的保護の提供の低下といった特徴を有している。これらの諸変化は、自由民主主義体制が正統性の揺らぎを経験していることを示唆している。 第二に、社会紛争の処理過程の経験的分析を通じて、現代国家が抱える問題点を析出した。具体的には、諫早湾干拓紛争を事例に、大規模公共事業が地域社会にどのような影響をもたらしたのか、また既存の紛争処理システムがなぜ当該の紛争を処理できないのか、適切な紛争処理のあり方などを、諸調査(アンケート、聞き取り、一次資料の分析など)を通じて検討した。諸調査の結果、①大規模公共事業は地域社会に分断を生じさせている一方で、その経済・社会的効果については十分に感じられていないこと、②現代社会における社会紛争は複雑性を有しているため、司法制度を通じた処理になじまないこと、③紛争処理のためには、過去を振りかえって帰責するだけでなく、未来志向の議論を通じた新しい社会秩序の形成が必要となること、などが明らかとなった。 上記の理論研究および経験分析を通じて、現代国家の変容を包括的に捉えるための学術的知見を得ることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定よりも研究が遅れてしまった理由・背景として、以下が挙げられる。 まず第一に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大をうけて、当初予定していた海外調査を断念せざるを得なくなった。当初は、福祉国家の再編という点に注目し、日豪の比較分析を行い、その経験分析で得られた知見を理論的に再構成することで、現代国家の変容の全体像を捉えることを予定していた。経験分析を行うためには、オーストラリアで資料収集を行ったり、現地の研究者と意見交換を行うことが不可欠であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の感染拡大をうけて海外渡航が難しくなるなか、上記の計画を抜本的に見直さざるを得ず、移動が制約された条件や国内においても研究活動ができる課題・論点にあらためて取り組む必要性が生じた。 第二に、上記の理由・背景に基づく研究計画の見直しを受けて、諫早湾干拓紛争を事例として、大規模社会紛争とその処理に関する研究にも新たに挑戦することとした。これまで共同研究への参画を通じて、諫早湾干拓紛争に関する研究も深めてきたが、現代国家の変容という本研究課題との接続を明らかにするためには、様々な工夫が必要であった。具体的には、現代国家における紛争処理の重要性、既存の紛争処理システムの意義と限界、紛争処理過程における市民の役割などに関する考察を深めるなかで、社会紛争の分析を通じて、現代国家の変容を分析的に捉えるための視点・視座を確保することができた。 以上のように、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、当初予定していた研究計画を見直す必要が生じたこと、そして、制約された条件でも遂行可能な、新たな研究課題を見つけ、それに取り組むことになったため、研究に遅れが生じてしまった。しかし、研究実績で述べたように、すでに新たな研究課題にも着手しており、一定の研究成果も得られている。
|
今後の研究の推進方策 |
残された研究期間もあとわずかであり、制約された条件のもとでも可能な研究を真摯に進めることで、研究成果の発信につなげていきたい。 第一に、すでに端緒的に研究成果を発信した「政治システムのインプット、アウトプット、前提の変容」に注目した現代国家の変容に関する分析を深めていきたい。具体的には、理論研究から得られた知見に関して、日豪の事例分析を通じてその妥当性を確認し、経験分析で得られた知見を理論的に再検討することで、現代国家の変容の特徴やダイナミズムを明らかにしたい。 第二に、大規模社会紛争とその処理に関する研究については、2020年度に行った諸調査の結果の分析を深めることに加え、追加の調査を実施することで深めていきたい。諸調査で得られた知見を、紛争処理における国家の役割に注目して、理論的・分析的に再構成することで、現代国家の変容の一面を明らかにしたい。 以上のように、2021年度は、これまでの研究成果を深めるための追加の作業を行うこと、および、研究成果の発信に力点をおきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大をうけて、海外調査の実施が困難となる一方で、制約された条件のなかでも遂行可能な研究課題の設定など、研究計画の見直しをせざるを得なかったため、次年度使用額が発生することとなった。残額については、上記の研究計画を遂行するために必要となる、現代国家の変容を分析した最新業績の購入や、社会紛争とその処理過程に関する追加調査の実施の諸費用として活用することに加え、成果発信のために利用したい。
|