研究課題/領域番号 |
17K13682
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
加藤 雅俊 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (10543514)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 現代国家の変容 / 批判的実在論 / 自由民主主義体制 / 福祉国家 / 代議制民主主義 / 国民国家 / 社会紛争 / 市民社会 |
研究実績の概要 |
本研究は、批判的実在論という理論的視座に基づき、社会統合のあり方の変遷に注目して、現代国家の変容を分析することを目的としている。2021年度は、これまでの研究成果をふまえて、以下のことを行った。 第一に、「自由民主主義体制のインプット(代議制民主主義)-アウトプット(福祉国家)-前提(国民国家)」の変容に関する理論研究を進めた。各領域の最新研究の知見を整理することに加え、資本主義システムの危機に関する研究の知見を整理し、自由民主主義体制が直面する課題を、批判的実在論の観点から総合的に捉えた。その結果、自由民主主義体制が、利益媒介の機能不全、社会的排除の多層化、国民の多様化、国家能力の衰退といった内在的危機に加え、地球環境問題による成長の限界といった外生的危機に直面していることを明らかにした。 第二に、社会紛争の処理過程に関する経験的調査(諫早湾干拓紛争に関するアンケート)の結果を、政治理論の観点から考察を行った。主要な紛争処理メカニズムの特徴を、考慮される当事者の範囲、当事者の参加の程度、考慮される争点・視点の広さに注目して整理した。その結果、紛争から影響を受ける当事者の数が多く、争われる争点が多岐にわたる現代社会の紛争(言い換えれば、高度に複雑な紛争)を処理するためには、多様な当事者を参加させ、多角的な角度から丁寧な議論を行う社会的合意形成というメカニズムが重要になることを明らかにした。 以上のように、21年度は、これまでの研究成果を理論的に深化させることに力点をおいた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2021年度末において、研究課題の進捗状況は遅れていると考えている。研究が遅れてしまっている背景には、21年度も新型コロナウイルス感染症の拡大により、研究活動が円滑に進められなかったことがある。例えば、自由民主主義体制の変容に関する研究については、国際学会で報告を行い、海外の研究者からコメント・アドバイスをもらうことを計画していたが、叶わなかった。また、紛争処理メカニズムの研究については、紛争当事者や専門家への聞き取り調査を計画していたが、こちらも断念せざるを得なかった。 この2年間にわたり、海外訪問や現地調査など、予定していた研究活動が十分に実施できなかったこともあり、経験的研究部分の取り扱いや研究成果の取りまとめ・発信などに関して、研究計画の一部見直しが必要となった。「現代国家の変容」の総合的分析として適切な着地点を再度検討したい。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間も残りあとわずかとなっており、着地点を明確にして、成果発信に向けた作業に集中することにしたい。上記のように、本研究課題は、現在のところ、「自由民主主義体制の変容」に関する研究と「紛争処理メカニズム」に関する研究から構成されている。前者については、理論研究で得られた知見をもとに、簡単な経験的研究を行う予定であり、後者については、聞き取り調査や追加のアンケート調査を行い、これまで蓄積してきた知見を再評価する予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、残念ながら、計画通りに進めることができなかった。また、22年度も新型コロナウイルス感染症が再び流行する可能性もあり、研究活動に支障が生じる可能性も残されている。 そこで、22年度は、新たな調査や経験的研究への着手が可能となれば、それを円滑に遂行していくこととし、新たな調査や経験的研究が困難となった場合には、これまでの研究蓄積を理論研究の成果として発信していくことを探求したい。具体的には、「自由民主主義体制の変容」に関する蓄積については、国家論や政治システム論の理論研究として、「紛争処理メカニズム」に関する蓄積については、現代社会論や秩序論の理論研究として、関係学会で報告し、学術論文として発表していきたい。そのために、各研究テーマに関して、先行研究の到達点と課題を明らかにしたうえで、それらに、これまでの自らの研究蓄積を接続し、理論研究としての意義を明確にしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、予定していた海外調査・海外学会への参加および追加の聞き取り調査・アンケート調査が実施できなかったことにある。残額については、海外渡航や追加調査が可能になった場合には、それらに充当することとし、引き続き困難な場合については、理論研究として研究成果を発信していくために必要となる費用(最新の研究業績の購入や製本費など)として活用したい。
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