本研究は、国境なき医師団とMOASという二つのNGOによる地中海上での移民・難民の捜索救助(SAR)活動を研究対象として、NGOとEU・加盟国との関係性を明らかにすることを目指している。令和2年度は、新型コロナウィルス感染拡大により国内外でのデータ収集活動が困難となりまた研究発表の機会が得られなかったため、以下の2点に専念し活動した。一つはオンラインワークショップの実施である。具体的には、英国の研究者二名、Dr James Hampshire(サセックス大学)とProf Vicki Squire(ウォーリック大学)をゲストに迎えEUの国境政策、難民政策について発表してもらい、最後に参加者(国内の研究者)も交えて議論を交わした。これを通して、難民をどのように捉えるかという概念化の問題などについてとりわけ知見を得た。 もう一つは、これまでにまとめた資料を基にしての論文の執筆である。NGOによる捜索救助活動は難民キャンプでの物資提供といった活動と異なり当局との公のパートナーシップの構築が困難である。他方で、上述のNGO2団体を含め様々なNGOとEUや加盟国の関係性をみると、単純に敵対関係であるともいえない。協力か敵対かという二元論的にはくくれない両者の相互関係を理解するため、分析枠組みとして協力(cooperation)、(体制)編入(co-optation)、相互補完(complementarity)、対立(confrontation)という分類を導入した。分析を通して、異なる文脈やどの主体が具体的に関わっているか等によって関係性が変容することを説明し、EU国境ガバナンスにおけるNGOのSAR活動の制度化に関する示唆を得た。2021年5月現在、学術雑誌に投稿中(査読結果待ち)である。
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