|
平成29年度（研究期間一年目）は欧州単一パスポート導入や共通通貨の導入という市場創出的統合と比較して、監督規制等の市場修正的な統合はなぜ遅れたかという点を、1990年代の国際金融規制（バーゼル合意等）の流れを踏まえて検討した。これについて、同年6月の国際問題研究学会での報告（ISA、香港）等を経て修正し、Giampiero Giacomello and Bertjan Verbeek (eds) 『Middle Powers in Europe and Asia』（出版予定）への一章として寄稿した。また一年目に、危機前の分権的な金融監督体制が欧州の金融市場でのリスク膨張に与えた影響、ユーロ危機を経た欧州中央銀行の役割の変化等について分析を深めた。一年目の終わりにドイツのマックス・プランク研究所（社会科学）に客員研究員として滞在し、セミナー報告、関連機関へのヒアリング調査を行った。
さらに平成30年度（二年目）は、ユーロ危機を経てユーロ圏ガバナンスはいかに変容したか、金融安定化の観点から危機後の制度形成をいかに評価できるか等の分析を進めた。同年6月に日本比較政治学会（東北大学）で欧州中央銀行の機能変化の政治的背景に関する論文を報告し、Jill Twark (ed) 『Invested Narratives: German Responses to Economic Crisis and Ordnung』（出版に向けて調整中）に寄稿した。また、ユーロ危機後の銀行同盟の成立とそれが欧州統合に与える影響について論文をまとめ、伊藤武・網谷龍介編著『ヨーロッパのデモクラシー（アドヴァンスト版）』（出版予定）の一章として寄稿した。
二年間の科研費研究の成果は、単著の書籍原稿『統合の政治経済学：欧州金融・通貨システムの不均衡な発展』に反映させ、文献等の確認と出版社との最終調整を行っている。
|
