本研究では、(1)名目賃金の調整が状態依存であるときの長期複数均衡の可能性、(2)家計の借入制約が労働時間に与える影響、(3)名目価格調整に状態依存性がある場合の長期均衡の唯一性を分析した。 (1)状態依存型賃金設定を想定したニューケインジアンモデルを開発した。そのモデルを用いて、賃金調整の頻度・タイミングが異なる定常均衡が複数存在するか分析を進めた。解析的な分析の結果、割引因子がゼロに近い状況では複数均衡が存在するための必要条件が満たされている一方、割引因子が高いという現実的な設定の下ではそのような必要条件が満たされる可能性は低く、均衡が唯一である可能性が高いことを明らかにした。これらの結果を数値計算による分析によっても確認した。論文'A Note on the Uniqueness of Steady-State Equilibrium under State-Dependent Wage Setting'をMacroeconomic Dynamics誌に発表した。 (2)異質な家計モデルを用いて家計が直面する借入制約が労働時間や厚生に与える影響を分析した。最終年度もデータとモデルの整合性について分析を行った。 (3)インフレ率が負の場合にも、名目価格調整が状態依存の下で長期的な均衡が唯一存在することを明らかにした。そして、論文'The Uniqueness of Steady-State Equilibrium under State-Dependent Pricing: The Case of Deflation'をEconomics Letters誌に公表した。
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