研究実績の概要 |
典型的な公共財供給の実験では戦略的相互依存は考慮されるものの、環境問題に代表されるように投資によって将来得られる便益自体が不確かである場合は見落とされがちである。自己予防問題とは、将来時点で損失を被るリスクを低める予防努力を現時点でとる問題である。その最適な予防努力の水準を決めるのが、プルーデンス(下方リスク回避度)である。近年の先行研究により、損失リスクが遠い(近い)将来にあるとき、期待効用の意味でプルーデントな意思決定者はそうでない意思決定者よりも多め(少なめ)に予防努力をすることが知られている。現New York University大学院生との国際共同研究(Masuda and Lee, 2019)では、この理論予測を被験者実験で検証した。実験結果は期待効用に反し、むしろプロスペクト理論によって統一的に説明できることを示した。この結果を集団予防や曖昧さ下の意思決定に展開することに取り組んでいる。 2020年度は、当初集団予防実験を行う予定であったが、授業のオンライン化などで、キャンパス内の教室にて行うことが困難となり、また対面実験再開の見通しが難しくなった。そこで代替的かつ継続可能な手段としてオンライン経済実験環境(z-Tree Unleashed)を確立する必要が生じた。この環境はごく最近になって研究者により開発されたため、日本で先に実装した例はごくわずかであった。そのため所属機関において、この実験環境を対面実験並みに安定して運用できる水準まで準備するのに半年程度の時間を要した。 2020年度は、関連文献の調査とオンライン学会参加を通じた情報収集を中心に活動した。とくにD-TEA (Decision: Theory, Experiments, and Applications) ワークショップでは高次リスク(・曖昧さ)態度にかかわる最先端の実験研究を知ることができた。
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