本研究では、完全競争市場をはじめとする様々な経済メカニズムが、効率性に加えて分配にどのような影響を与えているのかを評価できる理論的なフレームワークを構築し、経済メカニズムと格差との関係を分析した。 具体的には、再分配に制限があるような状況における弱い効率性の概念を新たに提唱し、各参加者がたかだか1単位しか財を需要・供給しないような同質財市場において、すべての効率的な配分の中で市場均衡が財の交換を最も少なくすることを明らかにした。さらに、一定の条件のもとで異質財市場にこの結果が拡張できることも示した。この結果は、競争市場が取引数量を最小化する、という特徴を持つメカニズムであることを示唆している。 日本を含め、世界各国で貧富の格差や不平等への関心が高まっている。富裕層から貧困層、持つ者から持たざる者へ簡単に富が分配できるのであれば、そもそも格差がここまで大きな問題になることはない。格差問題が「問題」であり続けている大きな理由は、格差を解消するような再分配の実現が様々な理由から難しいからである。「厚生経済学の第二基本定理」が示すように、どのような再分配もコストをかけず実現可能なのであれば、効率性と平等性という目標は矛盾しない。しかし、こうした再分配が可能という仮定は、現実の世界では近似的にすら満たされていない。 本研究は、既存研究の暗黙の前提を疑い、再分配の難しさを明示的に考慮するような新たな理論的なフレームワークを構築した。さらに、そのフレームワークを通じて、「完全競争市場が取引数量を最小化する」という意外な結果を導いた。市場やグローバル化が分配や格差に与える影響を厳密に分析するための土台を築いた社会的意義は大きい。
|