研究課題/領域番号 |
17K13703
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
松岡 多利思 首都大学東京, 経営学研究科, 准教授 (70632850)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 銀行危機 / 最後の貸手機能 / モラルハザード |
研究実績の概要 |
本年度の主な成果は以下の2点である。 1点目は渡辺誠教授(VU Amsterdam)と共に、中央銀行の「最後の貸手(lender of last resort)」機能と銀行のリスク回避行動についての関係性を分析した。貨幣サーチ理論に銀行システムやマクロ的流動性ショックを導入し、銀行危機のモデル化に成功した。その上で、銀行危機の際に中央銀行が緊急資金供給を行う最後の貸手機能をモデルに導入した。本研究結果は以下の通りである。(1)最後の貸手の存在は、銀行準備を減少させ銀行危機の確率を上昇させる、(2)そしてある条件の下では銀行のモラルハザードを促す、(3)しかしながら事前の意味での経済厚生は上昇する、(4)ある条件の下では懲罰的高金利はモラルハザードを制御できない、である。これらの結果は、現行の最後の貸手政策やバジョット・ルールの理念と相反する含意を含んでおり、今後の最後の貸手政策の方針に関して重要な示唆を与えていると考えられる。本研究結果は共同論文“Banking Panics and the Lender of Last Resort in a Monetary Economy”にまとめworking paperとして公開されている。現在、国際査読付雑誌に投稿中である。 2点目は、新興国における急激な資本流入と銀行危機との関係性を扱った単著論文“Banks and Liquidity Crises in Emerging Market Economies”が国際査読付雑誌Journal of Economic Dynamics and Controlに掲載許可を受けた。本研究は、急激な資本流入がいかに資産価格の急上昇と急降下、またそれに伴う銀行システムの崩壊を生みだすのかを理論的に解明した研究である。資本の流入規制等が銀行システムを不安定化させる効果がある事を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目において渡辺誠教授との共同研究2件目が完成し、ワーキングペーパー“Banking Panics and the Lender of Last Resort in a Monetary Economy”として公開されたこと、さらに従来より継続的に進めていた単独研究“Banks and Liquidity Crises in Emerging Market Economies”が国際査読付雑誌Journal of Economic Dynamics and Controlより掲載許可を受けたことは、申請段階において設定した目標を達成していることを意味している。引き続き、渡辺教授との共同研究2件を国際査読付雑誌掲載に向けて努力する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、単独研究および渡辺教授との共同研究2件を国内外の研究会・コンファレンスで報告し、国際査読付雑誌に掲載されるように継続的に改訂を進める。また金融自由化と金融危機伝播に関する単独研究論文“Financial Contagion in a Two-Country Model”の改訂にも務め、国際査読付雑誌への掲載を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度当初は旅費への支出に40万円を見込んでいたが、平成30年8月に参加した国際学会2018 Summer Workshop on Money, Banking, Payments and Finance(セントルイス・アメリカ合衆国)において宿泊費がFederal Reserve Bank of St. Louisから支給されたたために、7泊分のホテル滞在費が節約される形となった。そのため約53000円の差額が生じた。この差額分は来年年度以降の国際査読付雑誌への投稿料として使用する予定である。
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