研究実績の概要 |
当該研究期間における研究成果は、国際査読付雑誌3本とワーキングペーパー3本である。以下、代表的な研究業績3件のについて説明する。
1件目のMatsuoka (2016, http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.2742179)においては、基本的な3期間の銀行理論に国際資本市場を導入した2ヵ国モデルを構築し、他国の小さな流動性ショックが、国際資本市場の価格暴落を通じて自国の銀行危機につながる金融危機伝播の存在を示した。本研究は、金融自由化により銀行システムの不安定化が増し、経済厚生が低下する可能性があることを示した。 2件目のMatsuoka(Journal of Economic Dynamics and Control,Volume 94,September 2018, Pages 43-62)では、基本的な3期間の銀行理論モデルに国際資本市場を導入し、急激な資本流入がいかに資産価格の急上昇と急降下、またそれに伴う銀行システムの崩壊を生みだすのかを理論分析を行った。本研究により、資本の流入規制等の政策が意図せず銀行システムを不安定化させる一般均衡効果の存在を示した。 3件目のMatsuoka and Watanabe (Journal of Economic Dynamics and Control,Volume 108,November 2019, 103724)では、貨幣サーチ理論における代表的モデルであるラゴス=ライト・モデルに金融仲介機関およびマクロ的流動性ショックを導入し、流動性危機に対する金融政策の分析を行った。本研究により、最適金融政策(フリードマン・ルール)の下では社会厚生が最大となり、金融機関が準備を十分に保有することにより、流動性危機を除去できる事を示した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究目標は、現在ワーキングペーパーと公開している3件の改訂を継続し、国際査読付雑誌への掲載を目指すことにある。 1件目のMatsuoka (2016, http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.2742179)については、査読審査の結果を待ち、結果判明後は改訂要求にしたがって改訂を行う。分野のサーベイは継続する。 2件目のMatsuoka and Watanabe(TI 2019-002/VIITinbergen Institute Discussion Paper)では、代表的な貨幣サーチ理論に流動性危機および中央銀行の「最後の貸し手機能(Lender of Last Resort,LLR)」を導入した一般均衡モデルを構築した。本研究により、LLR機能における貸出金利操作が銀行のリスク・テイキングに影響を与えることを示した。金融危機時における最後の貸し手の役割に関する重要な政策的インプリケーションが得られたので、引き続きモデルの精緻化と論文の改訂に務める。 3件目のMatsuoka( 2021 http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3812049 )については、現在多くの先進国の中央銀行で採用されているスタンディング・ファシリティが資産価格に与える影響を分析した論文である。これまで注目されてこなかった資産価格への一般均衡効果の存在を指摘し、基準割引率や当座預金金利の変更が資産価格を不安定化させることを示した。本研究についてはまだ議論の余地が多く残されており、学会・研究セミナーでの報告を行い、提案・コメントに丁寧に答えながら改訂を継続する。
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