研究実績の概要 |
本年度に査読付国際雑誌に掲載された論文およびワーキングペーパーとして公開した論文はなかった。本年度は、昨年度に査読付国際雑誌に掲載された単独研究Matsuoka(Journal of Money, Credit and Banking,October,2149-2172,2022)の応用研究に着手した。研究目的は、近年先進各国の中央銀行が導入を検討している中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency,以下CBDC)と銀行危機の関係性を理論的に分析することにある。CBDCは、中央銀行の負債として発行されたデジタル通貨であり、現金などの法定通貨と同様に民間取引での流通を想定している。具体的な研究方法は、これまで培ってきた銀行理論の枠組みを貨幣サーチ理論に移植し、CBDCが取引手段として価値を持つ貨幣均衡において銀行危機が高まるか否かを分析した。これまでの理論研究によって以下の部分的な結論を得た。
1:現金と同様の通用性をもつCBDCの発行は,現金の流通を抑制させるが、CBDCには付利が出来るため,金融政策の自由度を上げることが出来る, 2:その場合,付利の引き上げは銀行危機の頻度を高める, 3:預金決済の様なCBDCの発行は,現金取引を存続させることができ,十分高いCBDCへの付利は銀行危機を排除することが出来る.
これまでの結果は、CBDCのデザインにより金融の安定性が異なることを示している。今後は、モデル解析の精緻化を行い、結果をワーキングペーパーとしてまとめることを目標とする。
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