本研究プロジェクトの目的は、公共情報が内生的に生じる状況における情報の社会的価値の分析することである。そこで、ファースト・ムーバーの行動をセカンド・ムーバーが観測することによって、セカンド・ムーバーの間でファースト・ムーバーの私的情報が公共情報になる設定をモデル化した。具体的には、産業組織論で標準的なシュタッケルベルグ競争モデルに需要が不確実な状況を導入して、一人のファースト・ムーバーと複数のセカンド・ムーバーがシュタッケルベルグ競争を行う理論モデルを構築した。一人のファースト・ムーバーの生産量は複数のセカンド・ムーバーに観測されるため、ファースト・ムーバーの需要に関する私的情報が、セカンド・ムーバーの間で公共情報になる理論モデルである。また、このモデルの拡張として、ファースト・ムーバーの市場参入タイミングの内生化も行なった。その結果、セカンド・ムーバーの数によって、ファースト・ムーバーの行動が消費者余剰に与える影響が異なることを示すことができた。その成果は、2018年後半にディスカッションペーパーにまとめて公表した。ただし、有力な国際査読誌に投稿して採択されるためには、当該分野の専門家が集まる国際学会で発表をして、より精緻な議論をする必要があった。そこで、研究期間の延長を申請して、国際学会で発表を行うことにした。産業組織論の分野において世界的に最も有力な学会であるthe European Association for Research in Industrial Economics(EARIE)が主催するAnnual Conferenceに採択され、2019年9月に発表を行なった。発表の結果、当該分野の研究者から有益なコメントを得ることができた。そのコメントを反映させた上で、2019年3月に改訂したディスカッションペーパーを公表した。
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