研究課題/領域番号 |
17K13711
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
小沢 佳史 九州産業大学, 経済学部, 講師 (80772095)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | J. S. ミル / 帝国 / 属国 / 植民地 / 古典派経済学 |
研究実績の概要 |
2018年度は、本研究を3本の柱で進めた。第1の柱は、資料調査である。具体的には、まず8~9月に、英国のSomerville Collegeの図書館へ赴いて、未刊の資料(J. S. ミルによる蔵書への書き込みなど)の調査を行い、その画像データを作成した。また3月に、国内の大学図書館へ赴いて、未刊の資料(ミルの自筆草稿)の調査を行い、草稿の一部の解読を試みた。本研究は、属国に対する支配国の政策(属国政策)について、公的には明示されなかったミルの見解や、ミルが暗黙のうちに共有していた同時代人の見解も考慮に入れる。そしてそのためには、こうした未刊の資料を分析することが不可欠である。 第2の柱は、国内での研究報告である。具体的には、6月16日に慶應義塾大学で開催されたミル研究会において、「J. S. ミルの属国政策論――19世紀のブリテン中央政府の軍事財政を巡って」と題する報告を行った。この報告は、属国政策に関するミルの見解のうちで、経済的な側面、とりわけ財政面について取り上げたものであり、最終的に英語論文を刊行するための準備作業として位置付けられる。 第3の柱は、共著の原稿執筆・刊行である。この原稿は、個人に対する政府の強制的介入――政府が、個人の意思とは関係なく、その人に対してある行為を禁止したり強制したりすること――に焦点を絞って、属国政策論を含むミルの見解を概観するものである。属国政策の強制的な側面に関するミルの見解を、彼の思想の中で位置付けるという点で、本研究の土台となる論考と言える。2017年度からこの原稿の準備を進めてきたが、2018年度には、予定通りに最終稿を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度には、一方で、資料調査・研究報告・論文執筆といった点で、本研究を確実に進めることができた。けれども他方で、研究計画のすべてを遂行することはできなかった。それゆえ、現時点では「やや遅れている」と評価される。 具体的には、2019年度の国際学会での英語報告へ応募するには至らなかった。主な理由は2点であり、①消極的な理由は、応募の準備を重点的に行う予定であった1~3月に、年度の初めには把握し切れなかった校務へ従事したことである。しかし②積極的な理由もあり、それは、未刊の資料(ミルの自筆草稿)を新たに調査することができ、さらにこの調査を契機として、2019年度にはそれを参照・引用できるようになる可能性が高くなったことである。この資料も新たに活用したうえで、英語報告を経て、英語論文を執筆していきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、第1に、2018年度に新しく調査することができた資料の分析を進めていく(2019年度前半)。この資料は、公的には明示されなかったミルの見解や、公的に明示された彼の見解の形成・成立過程を明らかにするうえで有益なものであると予想される。 第2に、上記の成果を踏まえたうえで、英語論文の投稿・刊行へ向けた作業を、できる限り計画に沿う形で本格化させる。具体的には、(a)国内の研究会などで報告を行い、(b)英語のディスカッション・ペーパーを作成し、(c)国内外の国際学会での英語報告を経て、(d)英語論文を共著ないし国際学術雑誌へ投稿する。とりわけ2019年度後半には、(b)~(d)を着実に1回遂行し、その中でも特に(d)については、研究代表者が編者の1人を務める英語論文集において論文の刊行を目指す予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度には、2019年度の国際学会での英語報告に応募するところまでを行う予定であった。しかし既述の2つの理由(①と②)により、この計画のすべてを遂行することはできなかった。そしてこのために、次年度使用額が生じることになった。 次年度使用額は、英語論文の投稿・刊行へ向けた作業――既述の(b)~(d)――のうちで(b)を進めるため、英文校正費に主として充てられる。他方で、2019年度分として請求した助成金は、(c)と(d)を進めるために、旅費と英文校正費に主として充てられる。
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