研究課題/領域番号 |
17K13711
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研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
小沢 佳史 立正大学, 経済学部, 専任講師 (80772095)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | J. S. ミル / 『代議制統治論』 / 草稿資料 / 対外政策 |
研究実績の概要 |
2021年度は、2020年度に引き続いて、新型コロナウイルスによる影響が研究の面でも校務の面でも大きかった。それゆえ、本研究を当初の計画通りに遂行することは困難であった。しかしそのような状況においても、計画を柔軟に変更しながら、本研究を以下の2本の柱で可能な限り遂行した。 第1の柱は、J. S. ミルの著書『代議制統治論』(第1版1861年)について、草稿資料(1860年頃)の分析を着実に進めることである。この草稿資料は、最初に、第1版の序文と第1章に該当する箇所が2019年3月に翻刻・公刊され、最後に、第14・15章に該当する箇所が2021年9月に翻刻・公刊された。こうした一連の成果を受けて、本研究では2021年度に、『代議制統治論』の草稿資料と第1版の該当箇所との異同をすべて記した資料(A4版、全229頁)を完成させることができた。この資料は、『代議制統治論』の草稿資料を活用した今後のミル研究にとって、不可欠な土台となるものである。 第2の柱は、完成された上記の資料を分析し、その成果としての論文の骨格をまとめることである。この資料から明らかになった点として、例えば第1に、ミルは語順や細かい表現に至るまで入念に推敲を重ねていた(それゆえ、ミルの継子ヘレン・テイラーによる証言を裏付けることができる)ということ、第2に、ミルは1つの章の中では議論の順序を変更しなかった(それゆえ、ミルの『自伝』の記述を裏付けることができる)ということ、第3に、『代議制統治論』の中で相対的に注目されにくい箇所(第16~18章の対外政策論)を、ミルは他の箇所と比べても大幅に増補していたということ、第4に、この対外政策論の中でもミルは、イオニア諸島のギリシアへの併合やリソルジメントと比べて、ブリテンによる植民地やインドの統治に関連する箇所を重点的に増補していたということが挙げられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
主として新型コロナウイルスによる研究の面および校務の面での影響のため、本研究を当初の計画通りに遂行することは困難であった。とりわけ、国際学会の開催形態が流動的であったため参加の可否を見通しにくく、さらに緊急事態宣言の発出などに伴って校務でも予想外の業務が生じた。 他方で、そのような状況においても遂行できる作業へ着実に取り組むことができた。特に、新型コロナウイルスによる影響を相対的に受けにくい作業として、『代議制統治論』の草稿資料と第1版との対照を重点的に進めて、それらの間の異同をすべて記した資料を無事に完成させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度までに資料をすべて整備することができたため、2022年度は、こうした資料の分析を踏まえた論文の執筆に専念する。具体的には、夏(7月を予定)と秋(9月ないし11月を予定)に、可能であれば対面で2回の研究報告を行い、論文について綿密に議論して意見交換を行う。そのうえでこれらの成果を、英語論文を含む2本の論文としてまとめてゆく。 なお、2020年度から2021年度にかけて、新型コロナウイルスに関連する様々なパターンを経験してきたため、2022年度については、ある程度まで計画通りに研究を進めることができると予測される。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、新型コロナウイルスによって、研究の面および校務の面で大きな影響を受けたことである。具体的には、まず研究の面で、国際学会の開催形態が流動的であったため、参加の可否を見通しにくく、国際学会での報告を行うことが困難であった。また校務の面では、緊急事態宣言の発出などに伴って、対面授業から遠隔授業へ切り替えてその準備をするといったことなどが、急遽必要とされた。 2022年度には、これまでに整備してきた資料を踏まえて、英語論文を含む2本の論文を完成させる予定である。次年度使用額については、主としてこの作業にかかる英文校正費と物品費の支出を計画している。
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