研究課題/領域番号 |
17K13722
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
田中 万理 一橋大学, 大学院経済学研究科, 講師 (70792688)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 労働争議 / 労使関係 / 開発途上国の企業 / 明治時代の実業教育 / 明治時代のエリート形成 |
研究実績の概要 |
途上国では小規模・低成長な企業が多く、その一因として企業規模拡大の際のフォーマリゼーション(法律に則した企業プラクティスを導入すること)に費用がかかることが考えられるが、これに関する実証研究は少ない。本研究は、途上国の企業と労働者の緻密なマイクロデータの収集により、労使関係・取引関係などに関するフォーマリゼーションについての企業家・労働者の知識不足が途上国企業の成長を妨げているという可能性について明らかにすることを目的としている。 第一に、近年ストライキの急増しているミャンマーにて、ミャンマー労働省が保管する労働争議に関する膨大なミクロデータを今後分析に使用する準備作業として、現地協力機関とデータベース化の作業を始めた。また、同協力機関がH29年度に実施したミャンマーの労働者と企業に対する労使関係についての調査に、調査票作成等の点で協力した。今後この調査データの分析についても協力して行い、上述の労働争議データの分析の結果も合わせて途上国の労使関係に関する基礎的な学術研究としてまとめることで合意した 。 第二に、日本の明治初期の中等教育・高等教育整備がフォーマル企業やビジネスエリートの形成に及ぼした影響について、追加的に歴史的マイクロデータを構築し定量的に分析した。初期的結果として、商業学校・工業学校・中学校が増加した県では、現代的な株式企業で働くビジネスエリートがより多く輩出されるようになったこと、特に平民からの輩出が顕著に増えたことなどがわかった。これらの結果は国際的な学会で発表した。 第三に、研究代表者がこれまで研究してきた、国際貿易がミャンマー製造業企業の労働環境・労働法遵守に与える影響について考察した研究に加え、本研究で得られた成果を国際的な学会で発表し、国際的学術雑誌に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一に、ミャンマー労働省が保管する労働争議に関する膨大な紙ベースのミクロデータ資料を今後分析のために使用する準備作業として、 現地機関と共同でエクセル化する作業を始めた。これは当初予定していなかったが、特に近年の製造業工場にて労働争議やストライキが多発しているミャンマーや他の発展途上国の文脈では、その原因や工場への影響を知る上で大変有用であると期待されるため、データベース化を行うことにした。またこの作業と同時に、同機関がH29年度に実施したミャンマーの労働者と企業に対する労使関係についての調査に、調査票作成等の点で協力した。同機関とは今後この調査データの分析についても協力して行い、上述の労働争議データの分析の結果も合わせて途上国の労使関係に関する基礎的な学術研究としてまとめることで合意した 。また、当初計画していたILOによる労使関係トレーニングの評価については、ILO側のプロジェクト開始の遅延により、現在まで様子を見計らっている。 第二に、日本の明治初期の中等教育・高等教育整備がフォーマル企業やビジネスエリートの形成に及ぼした影響についての研究では、歴史資料の追加的な収集・デジタル化を行い、初期的結果を国際的な学会(The Econometric Society North American Summer Meeting, Empirical Management Conference, Trans-Pacific Labor Seminar)で発表した。 また、国際貿易がミャンマー製造業企業の労働環境・労働法遵守に与える影響について考察した研究を、国際的な学会(NBER Summer Institute, Conference of the Society for Institutional & Organizational Economics)で発表し、国際的な査読付き論文雑誌へ投稿した。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、ミャンマー労働省が保管する労働争議に関するミクロデータのデータベース化を完成させる。その後、このデータをミャンマーのアパレル商品に関する関税データや研究代表者がH27年度に収集した縫製・食品加工工場の労働環境とマネジメントプラクティスに関するデータ、またCESDがH29年度に行った労使関係調査のデータと合わせて分析することで、どのような工場でより労働争議が起きるのか、また労働争議が工場のパフォーマンスにどう影響するかといったことを検証する。これらの結果を、途上国の労使関係に関する基礎的な学術研究としてまとめ、国際的な学会で発表し、国際的な査読付き論文雑誌へ投稿する。また、当初計画していたILOによる労使関係トレーニングの評価については、ILO側のプロジェクト開始の遅延により現在まで様子を見計らっているが、H30年度も引き続き機会を模索していく。
第二に、日本の明治初期に中学校・実業学校(商業・工業)が急増したこと、また高等学校の入試制度の変更等がフォーマルな株式企業やビジネスエリートの形成に及ぼした影響について、H30年度はさらに初期結果の頑健性を検証しつつ、国際的な学会で発表し、国際的な査読付き論文雑誌へ投稿する。
また、国際貿易がミャンマー製造業企業の労働環境・労働法遵守に与える影響について考察した研究については、H29年度に国際的な査読付き論文雑誌へ投稿したが、H30年度も論文が掲載されるまで引き続き改訂作業を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
該当年度にミャンマーにてILOによる労働者トレーニングプログラムを評価するためにミャンマーに渡航する予定だったが、このプロジェクトが遅延したため、この分の経費は次年度に追加的に現地訪問をするための旅費として持ち越す。
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