今年度は、通勤混雑費用の定量化の研究成果を用いて、更なる応用的な研究を行った。具体的には、グリーン車の導入による通勤者の選択の変化、社会厚生、普通車両の混雑レベルを、シミュレーションによって推計した。 グリーン車の導入は、高価ではあるが酷い混雑から抜け出す選択肢を通勤者にもたらす一方、普通車両の混雑はより酷くなるという効果を持つ。このようなグリーン車の導入を通勤者がどう評価するかは、通勤者の間で混雑の不効用が変わるかどうかに依存する。よって本研究では、混雑の不効用が通勤者によってどのように異なるかをまず推定した。その結果、混雑率が 4 人/平方メートルから 8 人/平方メートルに上昇すると、混雑の不効用が大きい 65 歳以上男性の不効用は 143 円増加するのに対して、混雑の不効用が小さい 49 歳以下女性の不効用は 42 円の増加にとどまり、属性による差はかなり大きいことが分かった。この推定結果を用いて、グリーン車が実際に導入されている横須賀線を題材に、グリーン車を導入した効果のシミュレーションを行った。その結果、横須賀線において最も混雑の激しい武蔵小杉駅と西大井駅の上り区間の 8 時から 8 時 30 分の普通車両の混雑率は、グリーン車を導入したことにより 8.36 人/平方メートルから 9.22 人/平方メートルに 10.3%上昇し、消費者余剰は、グリーン車導入前に比べて、導入後は 107 万 3 千円小さくなり、グリーン車導入による収入の増加は 174 万 9 千円であった。よって社会的余剰は横須賀線にグリーン車を導入したことにより、1 日あたり67 万 5 千円上昇したことになる(朝のみ)。ただし社会的余剰の計算にはグリーン車導入の費用を計算に入れていないこと、鉄道会社の収入と消費者余剰に同じウェイトを置いていること、などに注意が必要である。
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